+つれづれに+




 臆病者で、意気地なしで、何を信じようともせず、何を信じられずにいた自分を、どうしてあんたはあそこまで信じてくれたんだろう?
 思えば最初から―――そう、一番初めから、あんたは俺をどこまでも信じてくれた。

 どうして俺なんかを信じてくれたんだ?
 どうしてそこまでして助けてくれる?

 鈍い、俺だけど、そんな俺でもうすうすわかる。ブレードチルドレンの連中はもとより、姉さんすら、一発で気づいた。
 あんた、俺のこと、好きでいてくれるんだろ。

 どんなことがあっても俺を信じ続けてくれたあんたの期待に応えたいよ。だから火澄の手も振り払った。兄貴と戦いに行く。挫けそうな膝を、真っ直ぐに伸ばせてる。
 あんたが、信じてくれると思うから。あんたを、裏切るわけにはいかないと思うと、自分でもあるとは思えなかった底力が湧いてくる。
 この気持ちをどういうのかって聞かれたら……たぶん、他人事なら、一言の元に断言してしまうだろう。

「今日出かけるんだが、あんたヒマか?」
 そう電話したのは、一つの決心のせい。

 月臣学園、新聞部部長結崎ひよの。
 どんなときも、俺が自分でも認めるほど情けない奴だった頃から俺を信じ続けてくれた相手。
 チャンスはやったと思うぞ、我ながら、充分な。

 昼休みも放課後も登下校すらほとんど一緒で、いくらでも機会はあったのに、俺はこれまでの感謝の気持ちとして、チャンスをやったのに。
 だから、俺はもう待たない。
 俺の番だ。



「出かけるんですか!? ど、どこにっ!?」
「ピアスを買い換えようと思ってな。イヤならいいぞ」
「い、いきます! 行きますよ!」
 本日は平日で、学校があるんだが、今となっては学校もないって気持ちなんだろう。ひよのは二つ返事で了解した。

 ……俺にあんたの気持ちがわかったように、あんたも俺の気持ちがわかっていいと思うんだけどな。
 兄貴との決戦前、一日開いた休暇に俺が声をかけたのはあんただけだった。
 誰かと一緒にじゃなく、一緒に浅月たちの見舞いに行くのでもなく、俺は、あんたとふたりで出かけたいと思ったんだ。
 第三者から見ると、かなり相当ばればれだとおもうんだが……どうして気がつかないんだろうな?

「でも、鳴海さんってどうしてピアスつけてるんですか? キャラにあわないのに」
「合わないのか?」
「合いませんよ! ピアスっていうと、やっぱりまだ子どもがするには早いって風当たり強くって、不良ってイメージ持たれちゃいますよ? 鳴海さんって、普通が一番好きで真面目が大好きでその道から外れるようなことも怪奇もロマンも冒険も好きじゃないでしょう? どうしてピアスなんて子供の頃からつけてたのかな、って」
「……あんた、俺の小さい頃の写真まで集めてたのか」
「耳元くっきり写っている写真が少なくて苦労しましたー」

 朗らかに笑う彼女に、苦笑を送る。さんざん、あんたの情報収集能力には驚かされてきたんだ。いまさらこれぐらいで驚くはずもない。
「そうだな……多分、母さんがつけてくれたピアスだから、かな」
 微妙な温度の沈黙。
 そうだろうな。母さんが俺をどう思っていたか、俺になにをしたのか、それを知っているんだから。あんたは。

「―――小学校で、外せって言われなかったんですか?」
「言われたけど、兄貴が出向いていったらあっさり態度を緩和させたぞ。兄貴の事だ、教師を丸め込んだんだろう」
「鳴海さん自身は、どうしてそれをつけているんです? お母さんがつけてくれたものだから? やっぱり愛着でもあったんですか?」
「いや―――たぶん、つけてることも忘れるぐらいに昔から、当たり前みたいにつけていたから、かな。ないと何か落ち着かない」
「そのピアスを今回替えるのはやっぱり気合の入れなおしですか?」

 その質問には答えないで、俺は曇り空を見上げた。
 できれば青空がよかったんだが、雨でない分よかったと思うべきなんだろう。
 しかし、今日言うのは兄貴の思う壺にはまっているような気もするな。……兄貴は、きっと、こういう展開を見越して俺に一日の猶予をやったんだろうから。

 俺をまったく気遣わないあんた。
 クローン人間で、余命あと二三年で死んでしまうなんてことを知っても、まったく態度が変わらないのが、あんたのすごいところなんだろう。
 真綿で包んだような気遣いなんてものじゃない、まったくいつもどおりの普通の態度。
 ……それが、俺にとって一番嬉しいことだっていうことを、あんたは知っているんだろう。

 俺はあんたが勧めた髑髏ピアス……じゃなくスタンダードなリング型とクロスのピアスを買った。その帰途の道すがら、あんたは言った。
「でも、今日のお誘いは嬉しかったですよー。鳴海さんが電話してきてくれるなんて驚きでした!」
「……言いたい事が、あったからな」
 なんども助けられた借りがあるから、俺はチャンスをやった。

 それもここまでだ。
 公園によっていこうと身振りで示すと、あんたはすなおに従った。
 ひと気のない公園で、俺は脚を止めて向き直る。まっすぐに見下ろした。
「―――ひよの」
 目を見張った顔。あんたのそんな顔、珍しいな。
 チャンスは、いくらでもやったと思うぞ。我ながらな。
 ずっと、ずっと昔から、最初からどんな状況でも命をかけて俺を信じてくれたあんた。
 俺が今、信じているのは、あんたしかいないんだってこと、わかってくれるか?

 だから、頼む。
 ―――俺を裏切らないでくれ。

 あんたがブレードチルドレンでも、兄貴の命令で俺に近づいたんであっても、あんたが腹に何を抱え込んでいても、俺は、もう、あんたを疑えない。
 あんたを疑うってことは、今こうして地面を踏みしめ立っている自分の足を、自分で切り離すようなものだから。

 俺が土壇場になって言葉にまよっていると、ひよのが笑いかけてきた。
「鳴海さんから、言ってもらっていいですか?」
「え?」
「やっぱりこれは、オトコノコの見せ場だと思うのですよ?」
 悪戯っぽく、わらうあんた。……こんな時だけど、かわいいな。
 それに、やっぱり、気づいてたんだな。

 そう、だな。
 これは、俺のほうから言うべき事だ。

「ピアス―――今日交換したのは、理由があるんだ」
「え?」
「母さんが、つけたピアス。呪縛みたいだった。つけてないと落ち着かない。あると落ち着く。だから寝てるときもずっとつけてた。……手離しても、大丈夫なんじゃないかって思ったんだ。あんたがいてくれるのなら」
 俺は顔を傾け、せいいっぱいの勇気で笑いかけた。

「返事には足りないか?」
「いえ……充分です!」


 どーして歩くんはピアスをつけてるんでしょうね?
 性格的に、どう見てもしそうにない真面目で堅実な性格なのに、少なくとも小学生のころから付けてます(外伝小説参照)。日本の小学生がピアスつけていたら、それだけで「不良ー」と後ろ指を指されるには充分、外見で人を判断するのが大好きな教師には一発でにらまれ、「問題児」のくくりに縄で縛って放り込まれること必定だと思うのですが。
 レールから外れるのが嫌いで、危険も冒険も好きじゃないという性格的に「ピアス」というのは合わないなあ、と思うのです。何か理由があるんじゃないかな。




2005 8/7 up

スパイラルのページに戻る

トップへ行く