銀(シロガネ) 

「シンの髪ってほんとに綺麗ー」
 普段、シンは長い髪を無造作に首の後ろでくくっている。その髪を腕に抱いて撫でながらイールがいう。
 束ねた髪を猫の尻尾のように振り回されながら、シンは情けなく頼んだ。

「い、イール。毛、抜かないでね頼むから。ここまで伸ばすの、時間も手間もすごくかかってるんだよ」
「……やだ」
「うーわー!」
「やだな。冗談だって」

 ほれぼれとイールはシンの髪に見入る。こんな色を、イールは知っていた。削り出したばかりの銀の色だ。
 空気に接している面の色は、こんなに綺麗じゃない。金属はすぐに酸化し、黒ずんでしまう。ましてや錆びやすさでは定評のある銀ならあっという間だ。

 削りだした銀の、光を反射する美しいしろがね色も、一日で色は落ちる。けれどシンの髪はこんなに純粋な銀色なのに、幼い頃からちっとも変わらずこの色だ。
「シン。いつか髪切ったら僕にちょーだいね」
「……ちなみに、なにするのかな?」

「眺めて触って綺麗だなーって鑑賞する」
「それなら、まぁ、いいよ。いつか髪切ったらイールにあげる」
 シンが何を懸念していたかは、それこそ言わぬが花というものだろう。

「うん! …光の束を抱いてる気分になる」
 髪を引っ張られているシンは、諦めと慈しみの混ざった優しい表情でとほほと笑う。
 他人がするなら即座に払いのける。シンは他人に髪を触られて嬉しいと思う人間ではない。…まぁ大抵の人間がそうだが。

 しかしイールに髪を触られると、払いのけられない。
 理由は簡単、シンはイールに嫌われたくないからである。
「……キミタチは変なところで似ているよ」
 キールもシンの髪を玩具にするのが好きだ。最初は払いのけたものの、「貸しいくつあったっけ?」…という事で、好きにさせていた。キールの方は、シンの髪を三つ編みにしたり結ったりして遊ぶ。
「僕はあんまりこの髪が好きじゃないんだけどなぁ…」

 シンは言葉を濁す。髪の色は魔力の大きさを端的に示す。魔力が大きければ大きいほど、髪は美しい銀になり、同時に弱さを示す。というのが世間一般の常識であり、シンにあてはめた場合……完璧に正しい。

 シンは、弱い。術だけを言うなら人の三倍努力して、ようやく人並み程度だ。魔力は大きければ大きいほど、制御が難しい。
 レイオスには銀の髪と瞳以外の人間はいない。別にそれを不思議に思ったこともないが(全員黒髪黒目の日本人が、それが当たり前と思っていたのと同じである)はるか昔には、赤毛とか黒髪とかの人間がいたという資料の断片が、残っている。

 学者が立てた説はこうだ。
 はるか昔、このレイオスには魔力をもたない種族がいて、そういう人間は黒髪や赤毛であった。しかし、銀髪の、魔力を持つ種族との生存競争に破れ、そして絶滅した。だから今では、銀髪の種族しかない…というものだ。

 じっさい、魔力を持つものは全員銀髪だ。そして、銀を染めると魔力は使えなくなる。これらの事から、魔力が作用し色が抜けるという考えが、定説となっている。
「嫌い? なんで? こんなに綺麗なのに!」

 綺麗綺麗を連発するイールを見ていると、自然と口元に笑みが浮かんできた。
 イールは物事を単純化して、いい部分だけをシンに見せてくれる。
 だから、シンは、イールが好きなのだ。

 

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