あなたは間違っている 44



 協力者がいる。
 たどりついた答えは、それだった。
 どれほどのイカサマがあろうが、圧倒的に有利な賭けで負けたのは自分。
 やると決めたからには迷いはかききえ、躊躇はない。
 冷徹に思考を進め、決断した。



「―――なぜ俺を選んだ?」
「あの化け物を見ているから。あの化け物で人が死ぬのを見ていて、かつ、石の誘惑に一度は勝った。絶対の保障はないけど、今地球上で生きる誰よりも、君は石の誘惑に勝てる確率が高い」
 麻衣は冷静な口調で応えた。
 二人がいる場所は、ホテルの麻衣の部屋である。

 すでに剣は抜いて、片手に握っている。仮にカインが何かしようとしても、無効となるのはあの屋敷で超能力者を相手にしたときに確認している。
 麻衣は唇を吊り上げ、言う。
「僕が殺した人の件で、遺族をなだめるのに、大変だろ?」

 カインは沈黙でもって応える。
 ―――幻。
 遺族の前に現れた、本人以外の目には見えない幻によって、遺族の処罰感情は激減している。
 幻に囚われた遺族とて、それが幻である事はわかっているのだ。
 だが、振り払えない。
 体温も感じるその身体を、ひたむきに見つめる瞳を、消してしまうことができない。
「石を破壊したら、幻がどうなるのか想像もつかない。そのままなのか、それとも幻も消えるのか……。わからないけど、石は壊さないと駄目だ。僕が僕でいられるうちに、石が誰かの手に渡らないうちに」
 カインは深く黙って頷いた。

 あの死体の山と化け物を見たカインは、それに同意できる。
 だからこそ、麻衣はカインを選んだのだ。
「おさらいしておくと、あの石は、どんな願いもかなえる石として、使い手に付け込む。最初は無償で願いをかなえて依存させ、段々願いに代償をとるようになる。代償は、主に所有者の身体だ。蝕んでいって、最後には全身乗っ取る。そうすると、外部からは本当にわからない」
 いいながら、苦い記憶を思い出してしまった。
 頭を一つ振ってその記憶を振り払い、話を続ける。
「宿主を完全に乗っ取ったら、石は次に化け物を呼ぶ。そして……」
 麻衣は躊躇った。憶測でしかないことを言うのにためらいを感じたのだ。
 しかしその考えを否定。
 最悪の想像を示しておく事が必要だと判断する。
「町がいくつか、集団で消える」
「な……に?」
 初耳だったのだろう。聞き返す。

「『選ばれる』条件が何かはわからない。どうして消えるのかもわからない。でも、消えるんだ。町単位で、人だけが消える。ある日、こつぜんと。エネルギー保存の法則からいって、石がどこからかエネルギーを引っ張ってくるはず。消えた人間が、それかもしれない」
「…………」
「石は始末しなきゃいけない。絶対に」
 力を込めていうと、返ってきたのは疑わしげな眼差しだった。

「……なんでだ?」
 その質問を予測していた麻衣は沈黙で返す。
「どうして、そこまでこの石について知っているんだ?」
 いやー実はボク六年間その石がわりと転がっている世界で過ごしてましてー、六年間で二三回、その石を見ているんですよー。そのたんびに死ぬような死んだほうがましなようなあのシュレイルが絶叫して悲鳴をあげるような目にあってましてねー、まさか戻ってきてまでお目にかかるとは思ってもませんでしたよー。
 ―――とはいえずに、麻衣は黙る。

「いえないのはやましい事があるからじゃないか? お前は嘘を―――」
「はいストップ」
 片手を上げて、麻衣は止めた。
「まあ……今から死ぬんだから別に秘密にしなきゃいけない理由もないしね。言うけど、くれぐれも、騒がないように。時間がないんだから」
 と断って率直かつ単刀直入かつ簡潔に事実を告げた。
 カインはフリーズしたが、構っている暇はない。次の行動に移る。

 片手にさげたままの抜き身の剣は水のように透明で、惚れ惚れするほど美しい。
 これがダイヤだとしたら透明度は一級品のしろものだ―――そう思いつつ、大量に飲んだ痛み止めが効果を発揮してくれる事を祈りつつ、自分の体に突き立てた。





2006 11/23 up

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