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あなたは間違っている 42
信二の目の前の席に座る少女は、信二の話を聞いたあと、1分間たっぷり唸った。
「うーん、うーん、うーん……」
その気持ちが痛いほどよくわかる信二は止める気持ちもなくそっとしておく。
まったく、こちとら平凡な一市民なのだ。そういうことは格別頭がよかったり格別美人だったり、格別運動ができたり格別特殊な能力を持っていたりする人間がやって欲しい(今気づいたが渡辺麻衣は失踪前その二つに該当する)。
やがてうなるのにもあきたのか、彼女は頭を上げる。
「……その話、ホント?」
「少なくとも、自分は信じる」
「……なんでよー、どうして信じれるのよー」
「渡辺さんが、信じて欲しいと思っていたから」
「―――いつからテレパスになったのよ、信二?」
「なったつもりはない。会話してて何となく感じたんだ……わかるだろ?」
「……まあね」
しぶしぶという風に、同級生の女の子―――葵屋繭子はうなずいた。
会話していて、相手の感情をなんとなく感じ取る。
そういうことは誰にでも、一度は必ずあるはずだ。17年生きてきて一度もないという人間は、ちょっとばかり人の気持ちを思いやるということを学んだ方がいい。
「でもさ、それが本当ならどうして彼女はそれを言わないわけ?」
「―――言ってどうするの? まゆ。僕らは渡辺さんという人を知っている。知っているから、こうして悩みもする。でももしテレビで、見知らぬヒトが同じことを言っていたとする。『僕の超常体験を告白します! 僕は異世界にスリップしましたー』……まゆは、それを本気に取るか?」
「……とんない」
ぐて、っと繭子はテーブルに突っ伏す。
そこに、信二は追い討ちをかける。
「それに、ふたつほど、補強要因があるんだ。―――渡辺さんは家族には話した。僕らは渡辺さんの家族に会いに行った。そのとき、渡辺さんの家族が、僕らにどういったか覚えてるか?」
「……あ」
「そしてもうひとつ。―――僕は渡辺さんから指輪を貰った。銀色の、指輪。ところが、その指輪……錆びないんだ」
「……そうなの?」
「ぜんぜん錆びない。くすみもしない。鉄でも何でも大抵の金属は色がくすんでくるだろ。それもない。で―――硝酸ぶっ掛けた」
「……それはまた」
「溶けなかった。銀だ。なのに色が変わらない」
「プラチナじゃない?」
「最後に貴金属店に持ち込んだ」
信二はその時の騒ぎを思い出して遠い目をする。
しかしそれは話の筋には関係ないので割愛し、関係のあることだけを告げる。
「結論は純度が99.99999%以上の、正真正銘の純銀。技術的に不可能なはずの純粋な銀。世間で純銀といわれているものは、実は純銀じゃない。不純物がまじっている。でもこの指輪は正真正銘の「純銀」。この世界でたった一つの純銀製の指輪だってさ」
おかげで、盗んだものじゃないかと疑われたり大変だった。
しまいにはとんでもない値段で買い取ろうとこっそり耳打ちされた。
「渡辺さんの話を聞いてはっきりした。あれは、別の世界の技術で精製されたものだ。だからあれほど純度が高い。……信じる理由の一つにはなるだろう?」
繭子は考え込んだ。
ううう、と声を洩らして頭を上げる。
「……信二、あんたは、信じているのね?」
「ああ」
それが、決定打だったらしい。
繭子は勢いよく両手を広げた。
「わあった。わあったわよ。私も信じましょう。信じるわよ。今の荒唐無稽ヨタ話、小説ゲームアニメで定番すぎるほど定番の設定を信じましょう」
「まゆなら、信じてくれると思った。―――で」
「で? あんたのことだから、私にそんなこと話す以上、なにやら頼みたい事があるんでしょ?」
「話が早くて助かるよ。―――渡辺さんについてなんだけど」
「ん」
「渡辺さんがまゆのところにいたとき、誰か付き合っている相手いなかった?」
繭子はさらりとかえした。
「いたわよ? 複数。でも見たところ誰も彼も遊びって感じで、一番真面目に付き合っているのがアンタだったけど」
信二はこれだけは言っておかねばと、断固として言った。
「……まゆ。言っておくけど僕はあの人とは関係持ってない。そんな怖いまねできるか」
「まあ、確かにね。―――で、何をしようとしてるわけ?」
「まゆ、これが僕の気のせいならすごくいいと思うんだけど……あの人、死ぬ気だ」
「―――理由は何?」
「僕に、信じてもらえるとは思えないような今まで秘密にしてきた話を語った事。心残りをなくすためとしか、思えない」
「だから恋人なんかをあてがおうって? ……ちょっと……悪いけど、そういう人はいなかったと思う。遊びの相手は複数いたけど、あの人、遊びと本気を完全に割り切るタイプでしょ? 回数重ねるうち遊びの相手に情がうつるとか、そういうの少なさそう。実際、居場所を移動したとき完全に切れたみたいだし」
……確かニナー。
信二は麻衣の言動を思い出し、虚ろな目をしてしまう。
本命に対しては一途。かといって、遊びをしないわけではなく……つまるところ、麻衣は完璧に遊びと本気を割り切っていた。
繭子が妙な事を言い出したのはそのときだった。
「あのね、信二。いっそのことあんたがその相手になったらどうなのよ?」
「―――まゆ。僕みたいな平凡な一市民が、あんなひとの側にいられると思うか」
信二は力いっぱい断言する。
合わない。絶対合わない。恋人として、絶対に不釣合いな相性悪のカップルだ。
信二は平凡がいいと心から思っているし、麻衣はその真逆だ。
「じゃ、どうするのよ?」
「……………………」
信二は頭を抱えた。
平凡な高校生という言葉は、何の力もないという意味とイコールだった。
苦渋の末、信二は聞くものが聞いたら非常に身勝手ともとれる言葉を吐き出した。
「何も出来ないかもしれないけど……放っておきたくないんだよ」
どうしたわけか、繭子はその返答がいたくお気に召したらしい。
繭子はにっこり笑っていった。
「じゃ、渡辺さんの住んでるホテルにいくことから始めましょう。聞いたんでしょ?」
こっくりと、信二は頷く事しか出来なかった。
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2006 11/20 up
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