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あなたは間違っている 40
うそだよ。
その言葉に、心が揺れた。
信二がそうであればいいと思っていたそのものを麻衣の唇が語ってくれて、信二はほっとしたのだ。
揺らぐ現実と「常識」。
否定しようにも符合する事ばかりで否定できずに、でも肯定もできずに揺れ動いて惑っていた心の隙間に、麻衣の言葉はするりと入り込んで両方を肯定してくれた。
麻衣の話は、納得するには……認めてしまうにはあまりも危険すぎた。
異世界?
化け物?
なんだそれ、そんなもの認めてしまったらどうするんだ、そんなことが実在すると、認めてしまったらどうなるんだ。
これまで生きてきた17年で培ってきた全ての常識が、麻衣の言葉を認めてしまったら崩れてしまう。
あくまでフィクションの世界として楽しんできたゲーム、小説。
そんなものを、信二はこれから先、決して気軽に笑って楽しめなくなる。化け物が存在する事を認めてしまったら、夜の暗がりにも怯えてしまう。「それが本当に存在する事」を認めてしまったら。
惑っていた心にとって、麻衣の言葉は絶好の「折り合い」だった。
そうだ、全部嘘で冗談なんだ―――
ほっとして、その言葉を受け入れようとした瞬間、どうしてか信二は「それ」に気づいた。
何かが、信二から離れていく。
するすると、「やっぱりね」なんて気持ちで。
それは言葉にしたら「失望」というのが一番近いだろう。
麻衣の心が、無言のままひっそりと信二から離れていく―――離れようとしていく。
それに気づいた瞬間、信二は誘惑をかなぐり捨てた。
信二は渡辺麻衣をにらみつけた。
「僕は、あなたの言葉を信じます―――」
渡辺麻衣が16歳のとき異世界に行ったこと、及び付属するイロイロ全部認めよう。
認めなければ、麻衣は信二に幻滅する。多少なりとも彼女が抱いてくれていることは間違いない好意が、すべて、一夜の夢のようにかき消えてしまうだろう。
だから、理屈も何もなく、信じる。
信二がそういうと、麻衣は驚愕の顔になった。心底驚いている顔。
彼女のこんな顔は、ひょっとしたら初めてかもしれない。
信二は息を吸い、心を込めて言った。
「―――戻ってきてくれて、ありがとう」
十代の六年は、そう馬鹿にできるような時間ではないはずだ。
信二はいま17歳だが、11歳の頃の自分を思えば、六年という時間の重みがわかる。
マイが戻らなければ、あの日、信二の大切な人は取り返しのつかない傷を負っていた。
信二も、マイに会うことはなかった。
だから、その言葉を口にする事に毛筋ほどの躊躇いもなかった。
「お帰りなさい」
渡辺麻衣は、彫像と化したように固まっている。
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2006 11/12 up
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