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あなたは間違っている 25
突然の訪問者に、麻衣は微笑む。
「目的は、復讐?」
相手は沈黙して答えない。
「いいよ。殺されてあげよう。大事な主人を殺された君としては、そうでもしないとおさまりがつかないんだろうし、その気持ちも判るしね」
そこで初めて、訪問者が口を開いた。
「ちがう」
「なにが?」
「水和ではない。シンジ様のためだ」
麻衣は沈黙した。
「……あの、さあ。いや、人の趣味嗜好はそれぞれだけど、ついでに誰のための復讐かなんてのも、どうだっていいんだろうけど、やっぱり気になるから聞かせて。自分の心を読むテレパスなんてのが側にいて君平気だったわけ?」
「あらぬ疑いをかけられたことは何十度とある。そのすべてが冤罪だと証明できたのは、彼のおかげだ。水和様の事は、俺ひとり悲しまなくとも誰もが悲しむだろう。でも、シンジ様の死は、誰も心から悼まない。あんなむごい死に方をしても、誰も真実彼のためには悼まなかった。家中が、冷めていた。……なら俺ぐらいは悲しんでもいいだろう」
麻衣は考え、頷いた。
疑いを抹消するのは難しい。たとえ心からの真実の叫びであっても、無実の主張は嘘と誤解される。疑いをかけられたものが、潔白を示すことの難しさを、麻衣もよく知っていた。特に、異邦人という存在は、最初から色眼鏡で見られるのだ。
テレパスは、その疑いを解く、最強無比のカード。
「いいね、それ」
シンジ自身は、彼に恩を売ったつもりもないだろうが、その存在は確かに一人を救ったのだ。そのことに恩義を感じ仇をうとうとするまっすぐで義理堅い人間がいても、おかしくない。
§ § §
場所はどこがいい? と聞いたところ、人目につかないところがいい、と答えたので、その通りの場所へ移動することにする。部屋の中で殺すと、翌日にはカインの属する一族の人間が見つけてしまうし、その傷口からすぐにカインが犯人だと判ってしまうだろうから。
ちょうどいいところを知っている、滅多に人の来ない路地で、ごみが沢山散乱しているので死体の匂いも誤魔化せる臭いところだ、というと、カインは少々疑わしげな顔で、頷いた。
一緒に歩いている最中、間が持たないので話し掛けると、硬い表情でかぶりを振った。
しょうがなく、無言のままで歩いた。
目的の場所について、さあどうぞと手を広げると、カインは痛みを堪えるような顔だった。
それでも決意したように唇を結び、右手をあげる。
そのまま、二十秒近く経過した。
麻衣には、彼が何を考えているのかよくわかった。
抵抗したり、死人を中傷したり、そうしてくれれば殺しやすい。でも大人しく黙って死に場所までついてきて、無防備にしている人間をどうこうするのは、難しいのだ。
麻衣はやさしく言った。
「別に、躊躇する事はないよ? 僕は君の大事な人間を殺した。それは事実なんだから」
「……っ」
「君みたいな初心者が人を殺すときは、憎いとかそういうことだけを頭にいれなよ。相手にも家族がいるとか、事情があったとか、そういうの、考えたら駄目だよ。考えないで感情で動く事。これが殺すコツ」
麻衣の言葉に、カインの腕が震える。
そのまま一分が経過した。カインにとっては一生の中で最も長かっただろう、一分間だった。
「……謝れ……!」
「はい?」
「俺は殺したくない……! 謝れ……! そうすれば俺はお前を殺さないから、だから謝れ!」
麻衣は首を傾げる。
そうしてから、一音一音明瞭に発音して、言った。
「いやだね」
「どうしてだ!」
「ミナカズのためになら謝ってもいいんだけどシンジのためには謝れないよ。だって、僕は彼を殺した事については、ちっとも悪いとは思ってないんだから」
「石の犠牲者だからか?」
「いんや。彼が僕の心を読んだから」
「それは……」
「よしんば、心を読んだのが命令でシンジのせいじゃないとしてもだよ? それを僕に教える必要がどこにあった? 馬鹿が。馬鹿が馬鹿なまねをしてその馬鹿さ加減に相応しい罰を受けただけだ。あの少年の死については、僕はこれっぽっちも悪いとは思わない」
口先だけで謝る方法もあるが、死んでもいいと思っている今だからこそ、麻衣はその選択を取らなかった。
嘘をつき、心にもないことをいい、そうしてまで生き延びたいとは、思えなくなっていたのだ。
倒れる瞬間、麻衣が見たのは、自分のやってしまったことに衝撃を受けているカインの顔と、ビルの谷間の、青い空だった。
空の青や、月の白は、好きだ。
それは、あの日々を思い出させる。
空の青や月の白を見上げては、あの人と一緒に、故郷に戻る夢を語り明かしていたあの頃を。
誓います。
年内完結。
年は越しません、ぜったいに。
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2006 10/6 up
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