あなたは間違っている 13



「人の心を暴き、質問せずとも答えを入手できる能力者を貸してくれないか?」
 三人は一様に、同じ顔をした。
 気まずげな、困った顔だ。

 言い出しかねているほかの二人を代表して、口火を切ったのは嵯峨だった。
「私は探索系の術者を提供するのだ。ほかの事は二人にまかせてほしい」
 その手があったかとばかりに二人は嵯峨を見やる。
 しかし二番煎じは使えない。
 家の侮辱となる言い出しづらい真実をいいづらそうに言ったのは宇多だった。
「……その、提供したいのは山々なのだが、その能力者は当家にいない」
 陽成も続いた。
「『破れない約束』をさせる術者ならいますが……、それでもいいですか?」

 清和はかぶりを振る。
 『破れない約束』とは、約束を破ったら罰が下るようにするものだ。その罰は術者が自由に設定できる。激痛から、死まで。
「いや、それでは意味がない。完全黙秘を貫いている相手なのだ。そして、けっして殺してはならない相手でもある。となれば、罰は死以外のものにするしかないが、純粋な痛みにも耐えた人間だ、効果は芳しくないだろうな」

 俺の質問に真実を答えろ、と『約束の鎖』をかける。
 約束の鎖は答えない麻衣に罰を与えるだろう。しかし、死を罰にしたら、答えなかった瞬間に大事な情報源が死んでしまう。激痛にするしかない。しかし、激痛に音を上げる人間ではない事はすでに照明されているのである。

 清和は他の三人の顔を見て、どうやら本当らしいという結論に達した。
 人の心を覗き見れるシンジは、非常に貴重な能力者だったのだ。

「とらえたら、脅迫か買収か、どちらかを持ちかけるのがいいだろうな」
「その意見に同意する。……そのためにも、交友関係を洗っておく必要があるだろう」

     § § §

 麻衣は石に体内への侵入を果たしてからの三日間を、ベッドの中で過ごした。
 腹部に手を当てて、こう呟く事もしばしばだった。
「体。どうか、もうちょっと、大人しく、聞き分けよくなって……」
 通常、身体を守っている防衛機能、免疫システムの拒絶反応が具合の悪さの原因だった。
 石―――体内の異物に反応して、麻衣の体が必死に攻撃しているのだ。

 しかし三日後には嘘のように熱も引き、具合の悪さも静まった。
 体の中の悪魔が、麻衣の体の免疫システムを完全に支配下に置いたのだ。共存を認めさせた。
 免疫システムの機能低下ではなく、あくまで「共存」。体のなかの異物を攻撃するという免疫機構のプログラムを、「この石以外の体の中の異物」に変更したのだ。
 この一事だけでも、裕福な研究者なら一億出してでも麻衣を欲しがるだろう。その身体を実験体にして免疫システムを解明すれば生み出す利益はそんなはした金どころの話ではない。
 そして三日間、居場所を突き止められなかったのは幸運だった。あの状態では、ろくに抵抗できない。

 ただし、病状が治まったことが手放しでいいことかというと疑問である。
 免疫システムの屈服を意味しているのだから。
「自力で石を分離できる可能性は、まあついえたな」
 相棒は完璧に傍観者の口調でいい、麻衣は食事を胃袋に詰めながら答えた。
「……元々ゼロにちかい可能性だったんだから別にいいよ」
「で、今はそうして普通の食べ物をとっているけど、いずれそれもできなくなるわけだ」
「……」
「麻衣の場合、恐ろしく進行が早いからな。いや、侵攻かな? チャンスは最大限に生かして、攻められるところまで攻めようとしてる。中々正しい判断だ」
 そういやこういう人間だった……。
 麻衣はつくづく思い出す。容赦なく、悪材料をこれでもかと眼前に並べ立ててみせるその根性の悪さに何度泣かされた事か。

「……完全に化け物になったら、首を落とすよ」
 自分で自分の首を切断するのは難儀だが、麻衣には常識外れの刃物があるのでそう難しくない。
「今はそう決めていても、時間が経てば決めた心ごと変わるぞ」

 麻衣は黙って、プラスチックのスプーンでグラタンをすくった。
 毎朝、起きるたびに自分の心に問いかける。
 ―――まだ彼がなにより大事か。
 その質問にイエスをかえすたび、麻衣はまだ自分でいるとおもえた。

 しかし、そんな「自分判定」を本人に向かっていえるほど、まだ麻衣は自尊心にかけていない。




2006 8/13 up

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