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あなたは間違っている 8
死体から金品を奪っていると、声がした。
「手伝おうか?」
振り向くと、そこにいたのは相棒。
「うん、手伝って」
また死体から金目のものを奪う作業を再開する。
がさごそ、ポイ。
同じようにがさごそポイをしている相棒が言った。
「何やったんだこいつら?」
「んー、僕が旅人で一人だからひと気のないところに連れ込んで金品を強奪してその気のあるやつが楽しんだ後その気のあるやつに売ろうっていってたな」
見込みを誤った人間達は、揃って死体になっている。
「一人も残してないな?」
「当たり前だろ。全員殺したよ。誰に言ってる?」
相棒は笑って手をあげた。
「失礼」
死体の指を見て指輪があったらはずして背後に放り、服を見て隠しをさぐり、財布や小銭いれを背後に放る。
彼女の後ろには外套が広げられ、金目のものが小さな山になっていた。
「マイの、そういうところ、すごくいいな」
「? そういうところ?」
「一片の躊躇いもなしに死体の懐を探るところ」
マイは少しの間を置いて応じた。
「僕にそれを教えたのは、シュレイルだったような気がするけどな〜? オマケに今手伝ってるくせに」
「責めてるんでも馬鹿にしているんでもないよ。本当に、すごく、いい」
「……浅ましいって言われてる気がするんだけど」
「とんでもない。羨ましい、とすら思うよ。その……生命欲に溢れてるところが。たくましいところが」
「他の誰かが言うならわかるけど、シュレイルがいうわけ、それ?」
マイは身体検査の終わった死体を手から離した。肉が地面に無防備に落ちる音がした。
「誰を犠牲にしてでも生き残れっていうことを僕に教えたのは、シュレイルだったと思ったけど?」
「俺の生命欲は、あいにくと、頭で考えて得たものだから」
シュレイルも、自分の担当の死体を探り終えて、手を離す。
「俺は故郷に帰らなきゃいけない。待っている人がいる。放棄できない仕事がある。だから、帰るまでは死んではならない―――と、頭で考えて、生きることに執着してる。そういう事情を一切合切無視してしまえば、素の俺自身は、別に死んだって構わないと思っているんだよ本当のところ」
初めて聞く話に、マイは興味深げに聞いた。でも手は休まない。
今相棒がこなしたぶんで、全員の懐を探った。集めた金目のものを外套で包んで結び、持ち上げる。
「マイは頭で考えて生きなきゃいけないって思っているわけじゃないだろう?」
「うん」
即答した。力強く、きっぱりと。
青年の顔に、作り物でない笑顔が広がった。
「だから、そういうのはすごくいいなと思うわけだ」
人間って難しいな、とマイは思う。
マイが推測するところ、死んでもいい、という相棒の虚無感の原因は、恵まれすぎたからだろう。金持ちでハンサムで頭がよく、身体も丈夫。彼は何一つとして欠けたものなく最高に恵まれて生まれた。
ありとあらゆるものを持って生まれたということは、生きていても、失われていく一方なのだ。
生に執着がなくても無理はない。
そして、誰もそのことに同情はしてくれない。恵まれなくて不幸というのは万人が理解できるが、恵まれたから不幸というのは理解が難しいからだ。
マイは思う。
恵まれないのと同じぐらい、恵まれすぎるというのも不幸かもしれない、と。
§ § §
シャワーに身をさらしながら、マイは目を伏せて追憶を打ち切った。
生命欲に溢れていた自分を、彼は好いてくれた。それは間違いのないことだろう。
お世辞抜きの賞賛と好意。
自分が好きで、自分が生きている為にはどんなこともできて、何があっても生き抜いていこうとする逞しさを、彼は愛しんでくれた。
人によっては欠点と評価する生命への貪欲さを、何が何でも生き抜く渇望を―――マイの美点とした彼が今の彼女を見ればどう思うだろう。
マイはもう、あの頃のように自分の命を惜しめない。自分の命に投げやりになっている自分が心の中にいるのがわかる。
どうなったってかまうものか―――。そんな思いが、マイに幻へ逃避させた。
変わらない事は、変わる事と同じぐらい難しい。
時の流れの中で、愛する人がいとしんでくれた美点をそのままに維持することの難しさを知らないほどマイは子どもではなかったが、今の自分を見れば、彼はさぞ、落胆するだろう。
かつて愛した人間が、愛した美点をなくしたところほど、見て虚しいものはない。
―――マイがそう思っているのだから、マイが作り出した幻がマイを拒絶するのはあたりまえのことなのだ。
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2006 7/19 up
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