「在りし日を夢見るさまよい人 13」
リチャードをつれ茘枝がもどってきて早速一波乱あった。
リチャードは、巨人族の青年を見るなり声を上げたのだ。
「おい―――なんで亜人種がここにいるんだ?」
竜の尾の正当なる王位継承者にして王太子たるリチャード。
どうやら彼には、巨人族のことも教えられていたらしい。いや、妾腹で立場が微妙なケリーですら知っていたのだから知らなければ逆におかしいのだが。
ヘプライトは、下げられたラークスの拳が握り締められるのを見る。
誇り高い巨人族の青年は、自分の血を恥じていない。むしろ誇りに感じていることは言動から伝わってきた。
(殴るか……?)
ヘプライトはラークスが爆発したら取りおさえようと、ラークスの利き手の前方に体をずらす。
しかし、次の瞬間ヘプライトは、自分がずいぶんラークスを見損なっていたらしいと悟った。
握った拳を開くと、大きな体を二つに折り、うやうやしく、彼はリチャードに礼をしたのだ。
「お初にお目にかかります、世継ぎの君。私の名はラークス。茘枝さまの僕の名です」
恐らく、ラークスはそれが自分ひとりですむ問題ならば、爆発していただろう。
しかし、次期国王。
遠からぬ未来、竜の尾を統べる国王となることが決定している青年に暴言を吐くことは―――相手が狭量ならなおさら、一族の命運を分ける大事となる。
それがわからぬほどラークスは愚かでなかったし、自分の感情の制御ができないほど、こどもでもなかったようである。
彼は感情を爆発させて自分ひとりだけ満足するよりも、自分の怒りを押さえつけることを選んだのだ。
そんなわけでヘプライトは、いささかならず彼への評価をあげたのだが、逆の評価をした人物もいた。
「―――ラークス。どうしてあなたが頭を下げるの? そんな必要、どこにもないわ」
茘枝だった。
「あ、や、しかし……」
「頭を下げるべきでないときに下げていたら、誇りなんて擦り切れてなくなってしまうわよ。あなたはちっとも間違ってないんだから、頭を上げてなさい!」
茘枝は苛々した様子で頭を振ると、リチャードに向き直る。
「いい? リチャード。もう一度、同じことを言ったら、ただじゃすませないわよ? ラークスは私たちの仲間。いえ、それ以前に、あなたは次期国王なの。あなたが亜人種のひとたちを差別したら、あなたの側にいる何十人という人間は、その更に側にいる何千人何万人っていう人たちも、それに追従してしまうのよ。王太子っていうのはそういう立場。浅慮ではすまないの。自分の言動の重みを少しはわきまえなさい!」
彼女には珍しい、大上段から畳み掛ける叱り方だった。
そこに含まれた感情の棘に、室内にいる誰もが息を呑んだ瞬間―――
部屋の中央に、光が現れた。
2005 11/12 up
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