望月
――4年目――


キミの中には見えない壁がある
けして開かない扉が
それを思うとボクはたまらなくなる
そして叫ぶ
ボクに見せろと
キミの何もかもをあばかないと気がすまない
それに触れるのはボクが先だ
ボク以外の誰かがそれを許されるなんて耐えられない
なんて貪欲な独占欲か
こんなどろどろしたものでボクが出来てるなんて知りたくなかった
なのにキミはどうしてそんなふうなんだろう
どうしてキミの魂はキズが付くたび輝きが増すんだろう
まるで灯りに誘われて焼かれる蛾のように
ボクは、キミに、魅かれる…






 気の進まない新年会。今年も事務からの要請で出なくてはならなくなった。
 出たくなかったのは、去年のヤな事を連想させるから、と塔矢――だった。
 昨年クリスマスにケンカ別れしてから会っていない。あれから手合いが重なることもな
かったからだ。
 でも、きっと、今日はいる。
 オレを参加させるよりももっと出席依頼したい理由に事欠かない人物だからだ。

案の定、人込みの中で塔矢の姿を見つけたが、お互い目が合いながらもすぐ視線をはずし、
口も利かなかった。

 必要最低限の責任を果たし、スキを伺ってヒカルは早々に抜け出した。
 外に出ると早めに抜け出したのにやはり暗い。冬だから仕方ないと思いつつもこの場所
に暗い時間に出歩きたくないのが本音だ。足早に歩きながら正面の公園をチラリと見やり、
だがすぐ視線から外す。遠回りだけど仕方ない。公園の中は絶対通りたくなかった。
 それでも幹線道路の反対側にうっそうとした公園がどうしても横目にかかる。極力視線
に入れないように伏せ目がちに足元を見つめながら早く帰ろうと急くように歩く。
 だから、気付かなかったのか。
 後ろから突然、口を塞がれ、ビルの間に引きずり込まれた。


 ちょっと目を外していた間に進藤ヒカルが退出したらしいと聞いて、塔矢アキラは急い
で会場を飛び出した。
 タクシーに乗って帰ってくれるのだったら、かまわない。しかしきっと、進藤のことだ。
そんなこと思いつきもせずに電車で帰ろうとするに違いない。彼はそれぐらいしてもかま
わないだけの収入をすでに得ているはずなのに、公共機関以外の方法など思考の選択肢に
ないのだ。今日は是が非でも、せめて駅までは送るつもりだった。他の場所だったらこん
なお節介はしない。だが、ここ、は別だ。イヤがられてもそれで自分が安心出来るのだっ
たらいくら文句を言われてもかまわない。
 外に出て、すぐに往来を眺め回したが、進藤の姿はどこにもない。変だ、と思った。そ
んな時間を経ず、すぐに後を追ったはずだ。進藤が公園を突っ切って帰るはずがない。道
のどこかに後ろ姿が見えなくてはいけない。こんなに見通しが良いのだから。
 イヤな胸騒ぎに襲われて、アキラは夢中で叫び出した。
「進藤!進藤っ、どこだ!」
 ――アキラ、おまえってチョー恥ずかしいヤツ。こんなところで大声出すんじゃねーよ!
 そう答えてくれるのを期待して。



「おひさしぶり」
 男が2人、ニヤニヤ笑いながらヒカルをのぞき込んでいた。
 ヒカルの両手は顔の横で壁に押し付けられるようにつかまれて、びくともしなかった。
 イヤ、それ以前に足がスクんで動かなかった。
「あれからチョットお勉強しちゃった。あんた、結構ユーメー人だったんだね」
「若手の棋士の中じゃあ、有望視されているって書いてあったぜ」
 顔を見合わせてほくそ笑む。

 ――キモチワルイ、イキガ、デキナイ

「そんで今日新年会やるって書いてあったしさあ」
「そういえば、去年のアレも今頃だったじゃん?」
「プロのヤツは大抵出てるらしいしー」
「場所も書いてあったし、去年もソウだったんだろ?」
「だからあ、張ってみちゃったー。会えるかなーって」
「そしたらビンゴなんだもんな」
 そう言ってケラケラ笑う。

 ――カラダガウゴカナイ

「せっかく運命―テキに再会できたんだしー」
「遊ぼうぜ?」
「この間はー、イーとこだったのにジャマ入ちゃったし…」
「アンタもこれからってトキにお預けになっちゃったからツラかったろ?」
 そう言って、ヒカルの両手を片手でつかみ直し、空いた手で太股に手をやり、ジワジワ
嬲るように擦り上げる。

――ダレカ、キテ

そしてニヤリと顔を歪ませて臀部をわしづかみにした。
声にならない悲鳴を上げそうになったとき―――キコエタ。

「…どうっ、進藤っ!」

――ト、ウ、ヤ

「…ゥャ、塔矢っ!コ…ッ」
慌てて口を塞がれ、黙らされるが――、あやまたず、来てくれた。

「おまえら!なにしてるっ」
 低い、鋭い声が響いたが、現れたのが背はそこそこあるが線の細い若い男だったのに、
明らかにホッとした様子で軽口を返した。
「なーんだ、オトモダチ?何だったら混ぜたげよっか」
「一緒にイイことするかい?」
 ニヤケた表情で2人は嘲笑う。
 アキラはそれを冷ややかに見やり、無視した。
 進藤の様子と見覚えのある背格好の男たちに咄嗟に去年のヤツらかと直感する。
「最近は便利になりましたね」
 そう云って懐から携帯電話を取り出し、見せつけるようにかかげた。
「これがあれば、どこでも、警察が呼べる」
「あんたら、強盗罪に暴行障害、さらに新たな暴行未遂、前のはまだ立件できるし、今の
これで現行犯だ」
「…テメえっ」
 そう吐き捨てて、ポケットに手をやった。
「それにプラス、銃刀法違反。知ってます?持ち歩くだけで罪になるんですよ」
 アキラはやさしげといっていい微笑をする。
「それにあんたらは常習でしょう?捕まればイヤッて程、ホコリを叩かれそうですね」
 そう云うとクスクス笑った。
「そうするとブタ箱に放り込まれて検察に送られて裁判に掛けられて…。あんたらまだ未
成年って感じじゃないですよね、もう成人してんでしょ。それだと少年院じゃなくて立派
な刑務所、余罪がゴロゴロ出そうだから、そこで1年?2年?3年?――――」
 畳み掛けるように言葉にしながらアキラは嬉しそうに嗤った。
「大丈夫です。万が一取り逃がしたとしても、ボクがしっかりあなた方の顔を覚えてます
からモンタージュが提供できますよ。なに、都民の義務ですから当然です」
「以前の暴行の時のカルテもありますから、証拠は提出できますし、ボクも証言できます
しね。検事の方もしっかり有罪をもぎ取ってくれるでしょう」
 ――それとも、
 そう言って、アキラは獰猛に笑った。百戦錬磨の鍛えぬかれた勝負師の底闇い、人を射
貫く鋭い眼を投げ付けて――
「このまま二度とボクたちに手を出しませんか――?」
 2人は気おとされたようにヒカルの手を放し、一歩後ずさった。
「返事がないですね」
そう言ってアキラは見せつけるように携帯のフタを片手で開けた。
「日本の交番制度は中々優秀なのだそうですよ。現場に到着するまでの所要時間の目標が
約10分、都市部の――特に東京の場合はレスポンスタイムが約5分、それだけでいいそ
うです。試してみますか――?」
 そして、押す。
「いち」
 2人はギョッとして顔を見合わせた。
「いち」
 ジリジリと後ずさる。
「――ぜ…」
 ―――――――クソッと言い捨てて2人は我先に駆け出した。


 そのままヒカルは力が抜けたようにずるずると壁にもたれかかって座り込んだ。
「進藤っ」
 アキラは駆け寄って同じようにひざまづき、ヒカルの顔を安堵した様子でのぞき込み、
どこかケガをしていないか確認した。
「…塔…矢、」
 ヒカルは乾いた眼でぼんやりと塔矢を見つめ、尋ねた。
「呼んだ…の…?」
 不安そうに語尾がかすれる。
「ハッタリだよ」
 そう言ってヒカルの耳に携帯をあてた。時報の音が聞こえる。
「キミは、話したくないだろうから…」
 ――ボクとしては是が非でも刑務所に叩き込んでやりたい連中だけどね
 と悪戯っぽそうな顔で笑う。さすがに殺しても飽き足りないとは言えなかった。
 そんなアキラを見て、ヒカルはわずかに笑みを浮かべて探るようにアキラの腕に触れた
かと思うと強い力で抱き込み、首筋に顔を埋め込んだ。
 そのまま小刻みに体を震わせてしがみつく進藤に今度こそホッとした様子で空いた片手
で抱き込んだ。
「――アノとき…」
 進藤がその姿勢のまま細い声で話し出した。
「…後ろから…いきなりっ…ビルの陰に、引っ張られてて…」
「顔、上げたら…っ、アイツらっで…!」
「そのままっ…アシ、すくんでっ…カラダが、ウゴカナくて…っ」
 わなわな震えてシャックリをあげる。
「アイツらにっ、カラダ触られて…っ気持ちワルくてっ、吐き気がしてっ…なのにっ…」
「声も、でないっ、イキも、できないっ…、アタマもガンガンしてっ、…こんな、嫌、な
のにっ」
「…進藤っ」
「なのにっ、どおしてっっ、カラダ、ウゴカないっ…!」
 叫ぶように吐き出す進藤の姿にアキラはたまらなくなって身体をかき抱いた。
 そのまま昂ぶりが収まるまで抱いてるとポツリと呟いた。
「サイショ、の時…」
「コエが出ないまま、必死で…佐為、…呼んでた…」
 来ても、助けられないのにという声を飲み込んで。
 アキラの肩がピクリと揺れた。
「今日は…、塔矢の、姿しか…思いつかなかった…」
 アキラが恐る恐る体を離し、ヒカルの顔をのぞき込む。
「サイショ、の時も、今、も来てくれたのは塔矢だ…」
 泣きそうな顔で、ヒカルは塔矢の首に両手を絡ませてしがみついた。
「――進藤…」
 アキラは最初ひどく驚き、次に顔を歪ませてキツく抱き締めた。





 ――話がある、から
 そう言ってヒカルは塔矢にアパートに一緒に来てくれるように頼んだ。
 それでも道中2人は一言も口を利かなかった。
 ヒカルはぼんやり車の窓から流れる闇を見やるばかりで、アキラはそんな進藤の姿を気
づかわしげに見つめるだけだ。

 ヒカルのささやかな自分の城に落ち着いたところでようやく2人は向き合った。
「何から話そうか」
 そう前置きしてヒカルは淡々と一番、初めから――佐為の事を話し出した。
 一瞬呆然とした顔をした後、みるみる真剣な表情でアキラは聞き入った。

 ヒカルは話した。何もかも全てを。
佐為との馴れ初め。塔矢との最初の対局、2番目の対局、3度目の対局が誰だったのか
を。ネットのこと、そこでの4度目の対局。プロになるために佐為に特訓してもらいなが
ら駆け足でこの世界に飛び込んだ事。そして新初段シリーズ、誰がどんな条件で打ったの
か。元名人との最後の対局の事。緒方先生との最初で最後の対局。
 そして――佐為がどんな風に消えたか――。
「――それじゃあ、本因坊秀策はsai――?」
「ああ」
「saiが千年前の碁打ち――?」
「ああ」
「……」
「別に信じなくてもいい、オレも他人事なら信じやしない」
「……それで…秀策のコスミ…」
「……?」
「……ボクは藤原佐為という人が実在したのか知らない…だけどキミの話で自分の中の全
ての疑問が合うんだ…」
「…塔矢…」
「それにキミの眼は嘘を言ってない…」
 そうだろ?とアキラは真剣な顔で、目で、尋ねる。
 ヒカルは顔を歪ませて泣き笑いの表情をする。
「このこと、ご両親には――?」
 ヒカルは黙って首を振る。
「言えるわけ、ねぇだろ。信じやしないし、言っても心配掛けるだけだ」
 ――それにヘタすりゃ精神病院行きだ、と肩をすくめる。
「誰にも――?」
「…………」
「ずっと、一人で…?」
 ヒカルは押し黙ってうつむく。
「――以前、おまえのオヤジが言った」
 ほら、ネットでの対局の翌日病室行っただろ?とヒカルは笑う。
「対局中、新初段の時のオレを思い出したって――」
 あの人、スルドイのな、あんなメチャクチャな打ち方だったのにと苦笑いをして続ける。
「そして――おまえ言ったな」
 ヒカルは向き直って塔矢を見つめる。
「『キミに中にもう一人キミがいる』」
「佐為が見えるのはオレだけだった。あの時、おまえが佐為を見つけたと思った。オレ以
外の誰かが初めて佐為を見つけたんだと感じた」
 ――それにおまえはオレ自身を認めてくれた
「その時思ったんだ」
 ヒカルは静かに告げた。
「オレが誰かに話すとしたらそれはおまえだって…」
 だっておまえが一番、オレと佐為に係わったんだもんなとヒカルは微笑った。


 ――扉が開いた
 それをアキラは信じられない歓喜と共に迎えながら、聞かずにはおれなかった。
「それじゃ、いつも5月に情緒不安定になってたのは…」
 やっぱ分かるかとヒカルは苦笑した。
 おまえにはいつもみっともないところ、見られてたもんなーとブツブツ呟く。
「あいつが消えたのが5月5日だっただろ?それでクルらしくってなー。オレ今でもこい
のぼりダメだもん」
 軽く言ってるがそんなもんじゃないだろうとアキラは思う。表面上は平気な顔を取り繕
っていたがあの時期の進藤はいつも痛々しいくらい悲壮だった。
「一番最初にサボリまくって、いいだけ落ち込んでからもう大丈夫だと思ってたんだけど
…」
 そうでもなかったみたいと舌を出す。
「最初はあいつに繋がるものは必死にかき集めた」
 秀策の棋譜も、これも、これもそう、とピアスに触れ、後ろのシッポをつまむとあいつ
がそうだったんだーと言う。
「綺麗だったぜ?身を翻すと衣がゆれて、腰より長く伸びた艶のある髪がふわりと舞うん
だ」
 いつも傍にいる時はそんなこと、少しも思わなかったのにとヒカルは思い返す。
「…そのクセ、あんな美人顔でオレと同じレベルでダダこねるんだぜ、ガキと一緒」
 とクスクス笑い、懐かしそうに目を細める。
 アキラは複雑そうな顔でつい尋ねた。
「その、その女性は…」
 キョトンとした表情をした後、ヒカルは思わず爆笑した。
「何言ってんだよ、指南役だったって言ったろ?ヤローだよ、や・ろ・う」
 ヒー苦しいーと言いながらまだひくひく笑う。
 涙を拭いながら続けた次の言葉に塔矢は顔を強ばらせた。
「次の年からの揺り返しがひどくてなー。毎晩消えた時のことを夢に見るから不眠症にな
るはしまいにはところかまわずあいつの幻覚が見えるは本当に参った。それで今度はあい
つの思い出の無い所に行くために家を追ん出たワケ」
「――……」
「それでかな?オレってなンかピースが一欠けら足りないような、どっか壊れたままなん
だ。ひところ一人になりたくなくて、ゆきずりの女と良く寝た」
 ――繁華街を歩くとそうゆうの、結構引っかかるのな、まぁ、引っかけられたのかも知
れないケド。
「――だから、おまえとのこともソウだと思った。一人になりたくなくて、足りない何か
を一時埋める為に寝たんだと思った」
 突然確信をつく話に及んでアキラの顔が青ざめる。
「後悔したさ。言ったことなかったけど、おまえはオレにとって大事なモノだ。変わって
ほしくない、壊れるのはイヤだ。ライバル同士、その関係が一番しっくりいく。いつまで
も続いていける」
「―――だから、おまえがオレを好きだと言ったのはちょっとした勘違い、同情がすり替
って錯覚しただけなんだからって。ちゃんと時間をおけば元に戻る」
「――違うっ!ボクはっ」
 かまわずヒカルは続ける。
「――それなのに、あの時、拒まなくちゃいけなかったのに、自分の弱さで、ズルさでお
まえを利用した」
「進藤っ」
「オレがバランスを崩した。だから、元に戻さなくちゃ。それでおまえを避けた」
「――だけど、おかしいんだ。おまえの、女遊びのこと、聞いて、」
 しまったという顔をする塔矢にヒカルは泣き笑いで微笑む。
 ――ばっかだなー、こーゆー下ネタほどうわさはウけるし、下っ端ほど情報は早いんだ
ぜ?おまえ有名人の自覚ある?とからかう。
「喜ばなくちゃいけないのに、へンなんだ。落ち着かないし、イライラするし、しまいに
オレにご注進にくるヤツに思いっきり八つ当たりしちまった」
「それで、いっそおまえの顔をじかで見た方が頭も冷えていつも通りにふるまえるだろう
と思って食事の誘い、受けたんだ」
 ケンカになっちまったけどな。ヒカルは自嘲する。
「だけど、気づいた」
「ヤツらに触られて、嫌でたまらなくてっ、――――それなのに、どうしておまえは違う
んだ?」
 そしてヒカルの右手が塔矢の頬に触れる。
「どうしておまえに触れるのは平気なんだ?」
「どうしておまえに抱かれると安心できるんだ?―――オレは男なのに」
「進藤…」
「―――何であの時、怖いだけで、嫌じゃなかったんだ?」
「―――進藤!?」
「何で昔、おまえに、二度と現れないって言われてあんなに不安になったんだ?」
「どうしてオレじゃなくて佐為を見てるおまえがあんなに腹立たしかったんだ?」
「どうして越智とおまえが打っているって聞いて、あんなに悔しかったんだ?」
「どうして……遊びの女を見るくらいなら、オレを見ないんだと思わなくちゃならない?」
「進藤…」
「何で、嫉妬だと、気づかなくちゃいけない…?」
 ヒカルの顔が、歪む。
「ライバルでよかった。他の感情なんて…いらない…」
「知らない、方が、良かったのに…っ」
「…進藤…」
「…おまえが、好きだ…」
 ようやく吐き出した進藤をアキラは万感の想いで抱き締めた。
 声も出さずに涙を流すのを胸のシャツ越しに感じながらアキラもささやくように告げる。
「ボクもキミが好きだ…愛してる…」



「どうすんだよ、オレら男同士じゃないか。おまえ、ホモだったのか?」
「その言葉、そっくりキミに返すよ」
「おまえ以外のヤツ想像するくらいなら死んだ方がマシだね」
「ボクも御免こうむりたいな。キミじゃないなら女性も関心ないけど」
「あれだけ遊んでいたクセに」
「人のこと言えるのかい」
「言われるのオレだぜ?塔矢若先生を堕落させたって。オヤジさん、嘆くな」
「ボクが自分で選んだんだ。それに最初に魅かれたのはボクだ」
「……?」
「自覚したとき、考えたんだけどどうもあの時なんだ。きっかけは。こども囲碁大会の後
のキミを見つけたとき、キミが屈託なく笑いかけてきた時に意識した。その後ケンカ吹っ
かけたけど」
 プッと吹き出し、マジかよと笑う。
「それに、うすうす父にはバレてる気もするし…」
 一瞬沈黙し、ヒカルはハーと息を吐き出した。
「どちらにせよ、おふくろさんを泣かせるな」
「それはボクもちょっと…」
 とアキラも重いため息を吐く。
「キミの親御さんにも悪い」
「オレはなー、いっつも思い通りに動かなかったし…イイ加減親もあきらめてるだろうし
…、ショックだろうけど免疫ついてるだろうからおまえのトコ程じゃないと思うぞ」
 なあ、この優等生?とからかうようにのぞき込む。
「…ボクの頑固さも父譲りだ。いつも言われてるよ、似たもの親子ねって」
「それじゃーおまえも行く末は元名人か」
 そう言ってクスクス笑う。
 その間に2人はくちづけを重ね、何度もバードキスを繰り返した。
 それが、次第に濃くなり、吐く息がとぎれがちになる頃には2人の間には銀の糸が引い
ている。
「抱かないのか」
 ヒカルは潤んだ目で挑発する。
「ここでも良い?」
 アキラはヒカルの首筋に顔を埋める。
「すぐそこだぜ?」
「待てない」
 そう囁いて、アキラはヒカルの鎖骨に噛み付き、そのまま床に押し倒した。

つづく

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