新年記念小説

 結崎ひよのは新聞部で情報収集をしていた。
 同じ室内には椅子に座って本を読むカノンヒルベルト。
 かわりばえのない、いつもの一日だった。

 パソコンというのは、夢中になると時間がまるで消し飛ぶようになくなっていく。
 ひよのが突然の明かりに顔を上げると、すでに外は薄暗く、時間はいつもより一時間ほど過ぎていた。
 入り口脇のスイッチのところで、カノンは柔らかく微笑む。
「根の詰めすぎは、身体に悪いよ」
 それだけで、また、椅子に座って本を読みはじめる。

 カノンはひよのを待っている。そのひよのが予定をもう一時間もオーバーしている。
 なのに、少しも負担を感じさせない喋り方だった。
(―――悪趣味だと思うなあ……)
 カノンに言うとまたぞろ怒られるだろうから言わないが、このカノンが自分を選んだというのには、「もったいない」という気がしてしまう。
 性格よし、顔よしで、カノンならひよのなんかよりよっぽどいい人がいるだろうに。
 カノンは女の趣味が悪い。
 ……というとまた「どうしてそう自分を卑下するんだ」とか叱られるだろうから言わないけど。

「……すみません、カノンさん。あと三十分ほど、待っていただけます?」
 ひよのは聞きながら、カノンが拒絶するなんて思ってもいない。聞いているのは単なる社交辞令。
 返ってきたのは予想通りの返事。判ってて聞く辺り、自分の性格のゆがみ具合はどうしようもないと思う。

 ふと、首周りに熱を感じた。
 パソコンに座るひよのの後ろから、カノンが腕を回していた。
 カノンの体温の反面寒さを感じて、ひよのは頬の隣の腕に顔をすり寄せる。
「……あったかいですね」
「うーん。しみじみ幸せを感じるな」
「え?」
「カーニバルの直後にこんなことをしたら、君は冷ややかな眼差しを突き刺してくるか、あるいは実力行使で振り払うだろう? それを思うと、やっぱり嬉しい」

 それを聞いて、ひよのも単純に嬉しい。愛する人が自分を愛してくれる、愛されているという実感は、何にもまして人を幸せにする。
 ひよのはねだった。
「キス……してくれません?」
 おとがいを力強い指が繊細にとらえ、上向かせる。
 カノンは椅子の背もたれに右手をつき、覆いかぶさるようにキスをした。

 数秒ではなれたカノンの唇に物足りなくなって、ひよのはパソコンに目を戻した。
 …うんまあこれは、今日はここまででいいだろう。続きは明日やればいい。
 ひよのはパソコンを終了処理すると、回されたままのカノンの腕を支えに立ち上がった。

 ひよのの方から抱きしめると、カノンは一瞬驚いたような間の後、抱きしめ返してくれた。
「あなたの体温って、すごく落ち着きます。あなたにこうされるの、好きです」
 カノンの身長は、ひよのよりかなり高い。ぴったりはりつくと頬がちょうどカノンの心臓の位置ぐらいになって、少し頭を回転させると、物凄く速い鼓動なんかも聞き取れた。
 頭を撫でてくれる手。体中から感じる他人の体温。
 胸の中の不安も傷も、癒されていくようで。
 ひよのはカノンに、少し痛いぐらいに抱きしめられるのが大好きだった。


 ……蛇の生殺しかもと、思うこともあるけれど。



 ほのぼのカノひよ。
 先日ようやく書き上げたカノひよの事後のお話になります。カノンくん、がんばって耐えて下さい(笑)。連載開始は1月上旬の予定です。



 




スパイラルのページに戻る

トップへ戻る