水の彩 中   2

 

 

 

 キールは仲間内でも別格で通っている。

 本来こういう表現は人格も整っていない子供に使うべきではないのだが、まさにそうとしか言いようがなかった。
 リシス、は単独で使われる場合、精霊の友だちという意味合いを持つ。精霊を見れる人間のことである。

 「特殊な才能を持つもの」は少数であればあるほど、一種独特の仲間意識を持ち、連帯するようになる。キールは精霊の姿が見えるという点では仲間であるものの、他の組織(例えば精神治療者だとか)にも属しているぶん、どうしても異端児的な印象を免れなかった。

 リシスの「仲間」にしか来れない場所というのがこの界にはいくつかあって、その内の一つが、見渡す限りの花畑だ。
 この星の大部分は精霊のもので、そこに普通の人間が入ることは許されない。
 そこにキールがいるのを見たとき、最初ダムーンは気にせずどこか行こうと思ったのだ。
 キールがいるのは珍しくないし、キールは礼儀正しいがどこまでも冷たくひややかな壁を築いていて、無言の内に「どこか行け、構うな」と言っている。一緒にいて心地いい相手ではなかった。

 花畑は広い。関わりにならない場所なんていくらでもある。
 しかし、キールが同伴者をつれていて、更に見たこともないくつろいだ顔をしているのを見て、気が、変わった。
「よっ」
 声をかけて、「キールの弟かな」と同伴者を振り返って…絶句した。
 秒針が一回転するぐらいは、金縛りにあっていた。…おそらく。
 人と顔をあわせて黙っているにはかなり長い時間である(試してみよう!)。
 花だらけに飾りたてられた少年は、そのぐらいとんでもない美少年だった。

「……ものすご…」
「ダムーン。何だよ?」
 その声はあからさまに呆れていたのだが、それに気づく余裕は無かった。

 ぐわしっ、とキールの肩をつかんで、
「キールっ。彼っ、彼っ、彼っ、誰だっ!? 紹介してくれっ!」
「……ダムーン」
 実に芝居かがって、キールはため息をつく。
 あからさまにやられたそれにようやくダムーンも気づいて、頭がさめた。
「はい質問。彼の年齢はいくつに見える?」
「子供でもいいっ!」
 殴られた。

「い、いやそういう意味じゃなくてっ。大人になるまで待つから!」
「だめ」
 にべもなく一蹴し、キールは鮮やかな微笑みを浮かべた。
「ダムーン。俺を、敵にまわしたい?」
「いっ…いやそれは」

「よろしい。きみは賢明だ。なら、ここで、この子と会ったことを、誰にも言わないと約束するね?」
「…なんで?」
「ダムーン。君の性格からして、『今日、とんでもない美少年と会ったんだよー』と、コトをぺらぺら言い触らしそうだ。でもって普通の人間は、そこまで言われたらその子に会いたくなるものだよ。……俺、寝ている時に飛ぶ五月蝿い虫は叩きつぶさないと安心できないタチなんだ。約して、くれるね?」
 にーーーーっこり。
 ……キールの本性を初めて見た。そーか、こういう子だったのか。

「…名前と住所を教えてくれるのなら約束する」
「いいよ。契約成立。さっさと約束して」
 ダムーンが約束すると、キールは引き替えの交換条件を口にした。

「名前は、キール・リシス・タンジナー・ルシル・シミス・スティン。住所はラーブ地域のゼ地域」
 ダムーンは呆然としてそれを聞いていた。
「…キールのじゃないっ!」

「甘いね。ダムーン、名前と住所を教えるとは言った。けれどもこの子の、とは一言も言ってないよ。君も、俺も。よって契約違反とはならない」
「……―〜〜っ。その子は君の何なんだ?」
 こういう場所には、仲間以外は連れてこないのが、リシス達の暗黙の了解である。

「友達」
「へぇ。恋人か家族かと思った」
「ここに家族なんて連れてこないよ。
―――疲れる」
 ぽつりとこぼした言葉は、たぶん、本音。

 それはダムーンにもよく判った。
 家族には見えないものが見える、というのは否が応にも溝を作りだすのだ。狭くすることはできるけれど、無くすことはできない。
 家族のことは愛しているけれど、それと理解は異なる次元の問題だった。

 違う物を見ている人を、人は理解できない。

 だから、時々どうしようもなく疲れて、一人になりたくなるのだ。
 なのにそこにつれてきたという事は…。
「…確認しておくけど、その子はリシス?」
「違うよ」

「へっえ……。そーかそーか。よかったよかった、よかったよかった」
 ばんばんと背中を叩く。
 常日頃から、キールは子供にしては冷めすぎてると思っていたのだ。家族と不仲なのか、友達いないのか、あるいはもっと別の理由か……。

 力いっぱい叩かれたキールは複雑な顔で、
「……君がいま何を考えているかは大体わかるけどね、ダムーン。暗黙の了解なんて俺の知ったこっちゃない。連れてきたい奴はつれてくる。君が同じことをしてもどーぞ。二つ目。そういう訳だから、(とここで隣の美少年を指した)これに手を出したら…、すなわち俺を敵に回す事だと思えよ」

 と、いうキールは中々の凄味があったが、所詮はダムーンの三分の一も生きてない子供の言うことである。
「……一つ聞くけど、その少年は、友人であると君は言った。しかし、で、ありながら、手を出すのは許さないという。―――おかしいんじゃないかな?」

「別に。おかしくない。俺は、嫉妬ぶかいんだ。好きなものは独占したいね」
 またまたダムーンは驚いた。
「…へっえ〜。君が、好き、ねぇ……」
「……なんでそこで驚くんですかねぇ?」
「そりゃ、もちろん。
君が、自分自身も含めて誰も好きになれない人種だろうと思っていたからさ。うんうん。……で。その子の名前と住所、教えてくれない?」

「……成長したらって? 同じような事を考えている人間、軽うく十人は知ってますよ。おんなじ事考えているなら、先に知合った方に優先順位があります。あなたが割り込む隙はありません、諦めなさい」
 まったくけちである。
 しかし、だ。ダムーンは公平な人間であったので客観的に考えてみた。

 自分が片思いをしている現友達に、大人が言い寄ってきた。しかも一度会っただけ。まぁ、普通は邪険にするだろう。
 ダムーンは諦めて立ち去ることにしたのだが、その間際、キールは釘を刺した。
「約束、破るなよ」
 わかってます。

 この出来事のせいで二人は昼食に遅刻する羽目になったのだが、それは別の話である。

 

2001 12/19 up

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