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戦争が終わり、世界の終わりがはじまった 23
座敷牢の先住者は麻衣の態度に少なからず興味をそそられたらしい。
問われるまま、答えてくれた。
ガイドラインは、あの老人が語ったことと変わりはない。ただ、より詳細に語られた。
四つの一族は古来から「建前では」、協力して異界への門をまもるという事になっていたが、それぞれ自分たちは他とはちがうという確固たるプライドをもつ人々である。しかも四つの一族はそれぞれ得手不得手があり、超能力者といっても性質が異なる。
その違いは反発をうみ、元々普通の人々とは離れて孤高の(麻衣は心のなかで孤立だろと突っ込んだ)道を歩んでいる誇りばかり高い人々である。
協力しあう、ということがいつまでもつづくはずもない。それでも、最近までは平和であったのだ。反発と敵愾心は、種のまましまいこまれていた。
それが明確な「対立」になったのは最近のことだ。
―――麻衣はそこで合いの手をいれた。
「ちょいタンマ。最近て具体的には?」
「十年ほど前か」
「……十年前はふつうは一昔っていうんだけどねぇ」
頭痛を覚えながらかぶりをふる。
そういえば記憶のなかの人物もそうだった。もしやと確認したら、やっぱりだ。こうした人物は時間感覚が狂うのだろうか?
「わかった、それで? 十年前に一体何が?」
「一つの石が、異界への門をくぐって落ちてきた」
「わかった、大体話は読めた。その石をめぐって切った張ったが始まったんだろ、ちがう?」
ほう、と言いたげに目を見張る青年。
その態度に肯定を見出して、麻衣は頭痛をおぼえる。確かに言ったのは自分だが「それはちがう」と否定されることを期待していた。
「……で、その石はどんな特別な価値があるの?」
僧侶はゆっくりと言った。
「願えば、すべて叶うという力だ」
数回鼓動を打つだけの時間、麻衣は彼を凝視した。その表情に浮かんでいるのは疑念でも驚きでもない。冬の湖面のような静寂、強いていえば、哀れみとも言うべき静かな静かな表情。
「……それで? その石をめぐって争うことになって、それで? 今石は誰が持ってるの?」
「わからない。石は突然消えた。誰かが持ち出したのだろう。私は嵯峨の一族。ここの清和の一族が隠し持っているのではないかと考え、さぐりにきて囚われた」
麻衣は自由になった逞しい腕を組んで、考えこむ。
心にやどる言葉と声がある。思い返せばいつでもその声は蘇る。
―――マイ。冷静さを忘れず、見るべきものをきちんと見て考えて行動すれば、人間大抵のことは何とかなるんだ。
すべてのこと、と言わないあたりが彼の―――彼女たち二人の置かれた状況の複雑さだったが、彼女のなかにその言葉は根づいている。
冷静に。見るべきものを見て。きちんと考えて。行動する。
口にすることもできないほど大切な名を、心の中でだけ唱える。四つの音からなる、最愛の男。
麻衣はたぶん、これから恋をすることがあっても愛を語ることがあっても、あの時以上の気持ちにはなれないだろう。そんな確信がある。いやこれは話がちがうのだろう、麻衣が、あの時以上に誰かを愛したくない、心の中の記憶を最上のものとしてとっておきたがっているからそう思うのだ。
もしももう一度会えるのならば、何をしてもいい。
麻衣は心底そう思っていたが、一方。
石の力とやらは、欠片も信じていなかった。サハラ砂漠の降水確率のほうがまだ高い。
馬鹿馬鹿しい。
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2005 9/29up
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