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戦争が終わり、世界の終わりがはじまった 20
麻衣は、日常的に暴力を振るう事になれた人間にはふたつのタイプがいると思っている―――いや、経験から知っている。
一つは、暴力をふるう事に頼る人間。
もう一つは、暴力をふるう事を割り切れる人間だ。
前者は、暴力を自分の自身の拠り所にしている人間だ。それしか頼るものがなく、それを活用する事でしか生きていけないから、ことさらに暴力を誇示し、何かあればすぐにふるう。
暴力に怯えない人間は、稀だ。
そうして周囲を暴力によって恐怖させなければ、自分の居場所がないから、彼らは暴力を容易に使う。
後者は、割り切りの出来る人間だ。暴力に頼らずとも、生きていける自信のある者。そしてまた、暴力に対して、ドライな考え方、罪悪感を持たない人間が、何故かとても多い。
日常的にふるう暴力に、罪悪感を抱いている人間は、心がすさむ。心がすさんで、自信などもてなくなるから、だろう。
暴力はあくまで一つの選択肢。それ以上でもそれ以下でもない。
そう冷め切った考え方をする者は、逆に些細な事では暴力をほとんど使用しない。
自分に自信があるから、暴力に頼らないで生きていけるから、暴力は滅多な事では使用しない。むしろ、普通の人間よりよほど我慢強くなる。
麻衣に生き延びる方法を教えてくれた人は、後者の典型だった。
言葉じゃない、行動で、『こうあるべき態度』を示していた。
他人に優しく、礼儀正しい。雰囲気は粗暴さとは無縁の、知的な気品を醸していた。
滅多な事では暴力はふるわない人だったが、ただしふるうときは容赦なかった。
その背を見て成長して―――、麻衣もそれを自然と模範とした。
ただし、暴力に罪悪感を持たないところもまた似たので、別の側面から見ると、殺人にひとすじの髪の毛ほどの罪悪感も抱いてない者同士、実にろくでもない人間であったともいえる。
だから麻衣は今後何があっても、自分はまともな普通の人間は手にかけないだろうと『わかって』いる。
麻衣のような「割り切り」のできるタイプは、逆に怒りが行動に直結しない。どれほどの暴言を吐かれても、たまるのは怒りであって殺意ではない。
殺意は殺意。
怒りは怒りだ。
たとえ激怒していても麻衣はその相手を殺しはしない。
普通の人間は、激怒すると、殺意をいだくだろう。
しかし殺害が日常の人間にとっては異なる。殺意は怒りとは明確に別になるのだ。
麻衣の心をのぞいた少年の行為に怒りを感じているかといえばもちろんだが、心を満たしているのは『単なる殺意』だ。
心を読まれたと知った瞬間。麻衣は、即座にあの少年を殺すと決めた。
§ § §
襖が開き、麻衣がそちらを見ると灰色のスーツをまとった男が膝をついて、そこにいた。
「ルーアンです、御前に」
「そこの神崎を診てやってくれ」
「……素人医療でどうこうなるレベルではないと思うけど、ひょっとして治療のできる超能力者だったりするのかな?」
老人は苦笑に近いものを見せた。
「さといな。そのとおりだ」
「ケアルのできる白魔道師……か。こんにちは、ルーアンさん。礼もせず突っ立ってるのは君の上司のしわざで、僕としてはお辞儀の一つもしたいところだから誤解しないでね」
「は? いえ、誤解はしませんが」
「―――ルーアン。相手にするな」
「は……」
深く頭を下げて、白魔道師は気絶している青年のもとに歩み寄り、膝をつく。麻衣は老人に首を向けた。
「つれないこと。……ところで、殺すならさっさと殺してほしいんだけどな」
「何故? 私にはその意志はないのになぜそう先走る?」
「僕が、シンジだっけ、あの少年を絶対に殺すと決めているからだよ。あいつは殺す。絶対に殺す。なにがなんでも殺す。どんな手段を使ってでも殺す」
話し合いも何もなく、問答無用で殺害に走った人間の言葉である。
なんともいえない凄みがあった。
「……正気の沙汰とも思えぬ。この状況でそれを口にすることがどういう意味を持つのかわからないほど愚かな人間でもあるまいに?」
彼らにとってあの少年は、欠くことできぬ大切な存在だ。そして、麻衣はその相手を殺すと明言したのだ。とらわれの身で。
ころしてください、と云ってるようなものである。
「言ってる意味は自分が一番よく知ってるさ。僕はあの少年を殺したい。いや、生きている限り絶対に殺そうとするだろう。それは、あの少年から話を聞いた人間も同様だ。僕は絶対に諦めない。諦めるなんて論外だ。生きてる限り、やりとおそうとするだろう。でもそれができないのなら、殺して欲しい。僕は、赤の他人に心を読まれて生きていけるほど、強くない」
同室で、嫌でも話が聞こえてしまったルーアンは心にさざなみが立った。
上司―――、一族の長は、寒気がするほどしずかな声で返す。
「そなたほど腕が立ち容姿もすぐれ、胆力もある若者があたら死を望むと?」
「あなたは、あの少年に僕の心を読ませたとき、僕を殺した。あの少年を逃がしたとき、僕にとどめをさした。僕にもプライドがあり、望みがある。心を読まれたと知っていて、どうして生きていける? それは苦痛でしかない。殺されれば、この羞恥も、一秒ごとに感じる針のような痛みも後悔も感じなくなる。僕が今まで殺した人数からいって地獄行きはまちがいないが、このまま生きつづけるより、ずっといい」
「……心を読まれるのは、それほど苦痛か?」
「ちがうな、心を読まれたとしても、即座に殺せればいい。問題は、心を読んだ人間が生きつづけることだ」
壮絶な哲学に、ルーアンは思わず聞きほれた。この客人の青年の言うことはよくわかる。死にたいとまでは思わないが、心を赤の他人に読まれて、平気な者などこの世にひとりもいないだろう。ましてそれを得意げに吹聴するシンジは一族の鼻つまみ者である。
反感をいたるところで買いながら、それでもその能力の重要さゆえに、許されてきたのだ。
―――心を読まれて生きていくぐらいなら、死んだほうがいい。
そう語る壮絶な潔さに呑まれていた。
「……ここで解放されたら、そなたはきっと我が一族の皆殺しを意図するのだろうな」
「ダイナマイトを調達して、投げ入れるだろうね」
平然と答えるさまがなんとも恐ろしい。ルーアンは彼がそれをためらわないことを悟った。
しばし沈黙したあと、長はルーアンが仰天することを話し出した。
2005 7/13up
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