ねこねこねこ



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目指すは一攫千金ぼろもうけっ!のシノンさんと猫です!
ねこかわいーねこかわいーねこかーいーっ!
杉浦明日美は猫好きです。猫馬鹿です、飼い主馬鹿です。
我が家で飼ってる猫は、ホントにこれとそっくりの毛並みなんです!!(偶然の一致)
もう拳を振り上げて力説してしまいますよ! うちのみーこは世界一のべっぴん猫だ!
親ばかといわばいえっ。いーもーんっ、親ばかだもーんっ。
はとり様どうもありがとうっ! この絵をもとにして書き上げた小説はこれっ!





 無数の色がからまりあい、まざりあう。
 黒以外のすべての色は中央から浴びせられる光線をあび、目まぐるしくその色調を変化させる。重力もないこの空間では専用の磁気ブーツが入り口で貸し与えられ、地面を蹴ればたちまち重力から解放される。プリズムと色の渦まくその空間は、ひととき現世を忘れる格好の遊び場として人気を博していた。
 
 キールは上にも横にも長いが特に上に長い空間の上方で飛び回る人々に目もくれず、すたすたと床をよこぎり、チェックを解除して係員用扉を開ける。
 感情表現が豊かでおおらかな人物という評判のあるキールは、実際は感情の振幅が少ない。ない、とまでは言わないが、少ない人間である。

 そのキールが、そこに見えたものに一瞬唖然とした。
 待ち合わせの相手が、猫を抱き上げていた。満面の笑みで。
 キールの知る限り、この人物のそういった表情はきわめて限定された相手にのみ、向けられるものだった。
「……お前が猫好きとは知らなかった」
 シンは扉が開いた瞬間珍しい顔をした。しまったと言わんばかりにバツの悪そうな顔をしたのだ。それはさきほどの笑顔が演技ではなく本物だということを示していた。

 こんな場末の小さな店にいるにしては、場違いなほど黒くつややかな髪の持ち主である。腰までのこの長さでこうまで痛んでいのは、髪に手間暇を惜しまなかった人間か、他人に手間暇を惜しませなかった人間だけだ。どちらなのかは強烈に全身から放つ倣岸ですらある気品ですぐに察しがつく。外見年齢は二十二三といったところ―――しかしそれが大間違いであることをキールは知っている。
 磨きぬかれた白大理石のような肌は不思議な透明感と白さで、これほど白いのに象牙のように張り詰めた肌をして、顔立ちは造形美の極みである。
 美に関心あるものもそうでない者も、一目見れば感じ入り感嘆の吐息をつくだろう。
 人の好みは種々あれど、この青年を見て感動に打ち震えなかった者はひとりもいない。彫りの深い顔だちに美の基準を置く者も、浅い顔立ちに美の基準を置く者も、一人残らずその美のまえにひれふした。
 過ぎるほどに美しいが妖艶や艶治といった体にからみつく底なし沼のような印象はない。にじみ出る気配は澄んでいて、気品といい美貌といいどこからどこまでも「場違い」だった。彼らにもそれなりにこんなところに待ち合わせる事情があるのだが。
 キールは腕組みし、斜にかまえて聞いた。至高の美の体現者への遠慮もへったくれもない、実にざっくばらんな口調である。

「どこから紛れ込んできたんだ? その猫」
「客の誰かが連れ込んだらしい。一緒に浮かばせて遊ぼうとでも思ったんだろう。でも、猫に無重力で動けというのは無理な話だ。磁気ブーツも履けないし。恐慌状態におちいって闇雲に引っ掻いてまわるから、飼い主はさっさと見捨てて飛んでいき、猫は回収されてここに」
 無重力というのは、人間にとって害ばかりである。
 一日、なにもせず無重力にうかんでいよう。元の重力に戻ったときは絶望するほど筋力が落ちていることを実感できるはずである。たったの一日で。
 そのためこのプレイルームの時間は一時間とはっきり決められていたし、常駐していなければならない係員の部屋は無重力でもなんでもない。

 キールはくりかえす。
「お前が猫好きとは知らなかった」
 これだけ長い付き合いなのに―――と言外にふくませる。
「レイオスに猫はいないが、お前は猫みたいな小動物を捌いて食べる人間だったろうが。そういう相手に、好きだとか可愛いとか言うのか? ……遠まわしに非難しているようにとられかねない」
 考えすぎというか、細心の配慮というべきか。……後者だろう。世の中には無数の価値観がひしめきあい、ちょっとしたことを侮辱と感じる者も大勢いるのだ。他人からみれば「それだけ」が「そんなに」に変化する。
 ましてシンは育ちが育ちだ。一言一言に注意をはらい、敵意をもたれかねない要素のある会話を慎重に排除し、神経質なほど臆病に立ち回らなければ、生きていけない。たかだか五歳の幼児の頃にそこまで考えていたのかと思うと、感心するが。大人でももっと不注意きわまる発言をして墓穴をほる人間は多いというのに。

「それに、下手に私が小動物好きだと知られてみろ、どうなる?」
「贈られた愛玩用のペットの爪に毒が入ってるな」
「そういうことだ」
「じゃ、本当に好きなんだ」
 少し、意外だった。人間相手には冷酷なほど冷たいというのに、動物に対してはこれほど甘いとは。

「もこもこのむくむくのぽわぽわが好きだ。……可愛いな」
 毛皮に顔をうずめて表情を緩ませるシンに、キールは表情をかえずに篭絡した。
 可愛い。
 表情を変えなかったのは名人芸、一方溶けてくずれているのが理性である。しかし情けないと思わないでほしい、爆弾でいうなら中性子弾頭並みの威力である。被害にあったのがキールひとりというのはもっけのさいわいなのだ。もっともそんな無防備な表情を、キール以外の誰かの前でする人間ではないが。
 脳裏で算段、シミュレート。三秒で結論がでた。
「じゃ、飼えばいい」
「は? ……正気でいってるのか?」
 猫を手放すことなく、顔をあげる。

「雑菌のかたまりだぞ?」
 彼らの住む環境で、雑菌は大問題だった。
「いや、そろそろ菌を放そうと思っていたし。あの環境は清潔すぎる。俺もお前も免疫力が落ちるぞ」
 無重力とおなじ理屈で、不自然に雑菌を排除された環境は人間にとって有害だった。そこでしか生きていけなくなってしまう。
「しかし汚染が……」
「平気、平気。おまえね、一体何のために俺を飼ってるの。少しはお前の召し使いを信じなさい。猫一匹ぐらいどうとでも対処できます」
 長身のキールは、体をかがめてのぞきこむように唇をついばむ。
「お前はいくらでもわがまま言えばいい。それを叶えるのが俺の役目」
 ……シンは、少しの間のあと苦笑した。
「私に向かってそれを言うか?」
「言うよー、お前のほうが財産家で力もあって強くても、言いますとも。俺はお前の我がままを聞き入れるためにここにいるんだから」
 シンは猫を床に下ろすと、キールの襟元をつかんでかがませる。
 爪先立ちになって、軽く、かすめるようなキス。
「報酬だ」
「別にいいのに」
 キールはわらって猫をだきあげた。
「じゃ、お前は今日から我が家の一員だぞ」
 猫は抗議して、にゃおと鳴いた。



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