キリ番リクエスト2000  A

 

 

注意!  完全なる別次元異世界だと思ってください。
キャラの性格も、微妙にちがいます。


 夜寝て、朝寝て、昼間寝た。

 普段、会えないでいる餓えを癒すように、肌と肌を触れ合わせ、吐息を重ねた。

「……シン」
 呼ばれて、目が覚めた。
 キールの裸の胸に頬を合わせて、眠っていたのだ。

 キールはシンの目から頬にかかる、長い髪をつまんで外し、目を合わせて微笑んだ。
「おはよ」
「……今、何時だ……?」
「六の刻(正午ごろ)。起きた方がいい」

「六……」
 シンは下敷きにしていたキールの上からどき、寝台から下りた。
 目にしみいるように、白い肌だった。
 裸身には点々と情交の跡が残り、余計に見るものの劣情をあおる。

 細い首から華奢な肩へと流れ、線は鎖骨の下で盛り上がり、乳房を経て再び下がる。
 全身の体の線は、男性的な直線ではなく曲線で構成されていた。もっとも、ここまで優美な線を持つ人間は、探すのも困難だろうが。
 髪は非常に長い。
 シンが頭を振って乱れた髪をなおすと、先端は腰につき、切り揃えられた髪は半弧を描いた。
 削りだしたばかりの銀の輝きをもつ髪は、処女雪のように白く輝いている。

 同じく眉の上で切り揃えられた前髪の下、眉はくっきりと濃く弓なりに整い、唇も薄く引き締まっていた。
 彼女を見た誰もが、その美貌には感嘆の吐息を洩らした。春の日だまりのような、暖かく心休まる印象の美貌ではなく、夜の、肌を貫く寒気を憶えさせるような、と形容される類のものであったが。

 各部の印象は、総じて脆く、柔かった。しかし全体的な印象は、細身でありながらしなやかで無駄がなく、俊敏で鋭利な印象を、人に与えた。

 力任せに叩き斬る斧ではなく、鍛えぬかれた片刃の剣。
 そういう印象を与えるのは、その瞳の持つ力だろう。

 人を支配し、見据える、支配者の目。  彼女は人を冷静に値踏みし、見定める観察者の目、そして、いざとなれば殺人をもためらわない冷酷な殺人者の目を兼ね備えた、希有な瞳の持ち主だった。

 その目を和ませ、彼女は情人を見る。
「一緒に食事をとろう。お前も、早く服を着るといい」

 昨日は一日中、肌を重ね、互いの飢えを確かめることで愛情を確かめていた。

 彼女が心を許せる相手は、ごく狭い範囲に限られている。目の前にいる相手は、そんな一人だった。
 もう、長い付き合いになる。

 二十年以上の時間を、ともに過ごした。
 最初は喧嘩相手として。次は喧嘩友達として。次は共犯者として、その次は、求愛者として。
 キールが自分に求愛してきた当初、シンはひどく面食らったものだった。
 なんせ、それまでの経緯が経緯である。
 罠かと疑い、本気を疑った。

 そして、今は、情人として、会えば枕をかわす関係である。
 シンは床に雑然と脱ぎ捨てられた服を拾いあげ、身につけた。

 白地に金糸の精緻な刺繍が入ったそれは、絹地で仕立てられていて、素人目にも高価な一品だった。
 シンにとってはくさるほどある一着に過ぎないが、普通の人間ならば、まず、こうして皺のつくまま脱ぎ捨てておくような粗雑な扱いはできないだろう。

 しかし、緑の座の衣服にしては、これでもなお、質素にすぎるほどだ。
 この国の、人の最高権力者。

 この星でもっとも高貴な「人物」であり、この星有数の、貴顕である。

 そして同じく寝台から下りて服を着た幼馴染みの顔をつかんで引き寄せ、その唇に、軽く自分のそれを押しあてた。
 それから、にこりと笑う。
 そうすると、普段の無愛想な堅さはまるでなりをひそめ、夢見るように美しい、穏やかな微笑を浮かべた麗人がいるきりだった。

「食事の用意は? 今から? これから?」
 ここはシンの家ではなく、キールの家だった。
 彼らが会うときの通例に基づいて。
「……ちゃんとしてある。出せるよ」

「それはよかった。私は大層お腹がすいている」
 二人が揃って食卓に行くと、すでに食事は用意されていた。
 そして、シンにとっても家族といえる人が席についていて、二人を見るなり言った。
「お、は、よ、う」
 多少……いや、かなりの刺が含まれていることは、表記しておかなければなるまい。

 シンの隣のキールが挨拶を返した。
「おはよう、にはちょっと遅いよ、ナギ。こんにちわ」
「たしかに、もう、太陽は中天にあり、だ。でも、お前が私に顔を見せるのは、今日これが初めてだったと思ったが?」

「あ……、すみません」
 シンはそう謝ったが、キールの父は手を振った。
「シンは謝らなくていいよ。どーせこの子が、無理難題言ったんだろう」
 ナギの評価は、日頃の行いの善し悪しの正直な反映と言うべきものだった。
 しかしシンは、首を傾け、唇をほころばせた。
 人の目を吸い寄せる華やかな微笑に、ナギは口を思わず言葉を発するのを忘れて、見入ってしまった。

「そう、キールを怒らないでください。私は嫌じゃないので」
 そう、嫌じゃない。
 キールと抱き合うと、どろどろに自分の中の理性も良心も悪心もすべて溶かされる感覚がある。キールのそれも溶けて、一つに混じりあって、固まる。
 鋭敏になった感覚で快楽と、求められているという事を実感するたび、体が熱くなる。
 より多くを求めたのは、キールか、自分か……。求められるだけ応え、また、求めた。
 愛されていると、全身で感じられるから、キールと抱き合うのは嫌じゃない。
 目をふせ、回想する彼女の姿は目に毒なほどに艶やかだった。

 ナギは顔をふせて見まいとし、キールは自分の恋人の姿を同じ食卓について、でも心は少し離れたところから、どこか寂しげに見つめていた。
 食事が終わり、シンが自分の家に帰ろうとしたとき、キールから呼び止められた。

「シン」
 本名ではない。地位の名でもない。
 敬称でもなく、愛称。
 特別に親しい人間にだけ、呼ばせる特別な名。
 振り返ると、キールの手から魔法のように一つの包みがでてきて、シンに手渡された。
 握りこぶしほどの大きさの、立方体の箱だった。

「なんだ、これ?」
「お前さあ……なんでこういう時だけ察しが悪いわけ?」
 普通の人間でも、友人に言うのは、はばかる言葉。普通の恋人でも、言うのは、はばかる遠慮のなさ。

 ましてや、シンは奇跡のような美貌の主で、前に立つ誰もが気後れする。その瞳で見つめられるだけで、人は何も言えなくなった。
 キールの目を見上げたが、ただ見返すばかりで、反応はない。
 シンは口元に手をあて、くっくと笑う。
 こうまで気兼ねなく何でも言い合えて、気のおけない友人が愛人になったのは、いいことかはたまた悪いことか。
 それは今答えの出ることではないだろう。何十年後かにやっと、答えらしきものがでる、そういう問いだ。
 自分に求愛する相手はいくらでもいた。肌を重ねた相手も何人か。でも、今は誰もいない。キール以外は。

 ナギは気をきかせて、もうすでに退場してる。
「とにかく、それ、開けて」
 キールに言われるがまま、開けると、中からは黒金の髪留めが出てきた。
「……」

「結婚、しよ」
「私の伴侶になりたいのか?」
 確認すると、キールは気負いもなく頷いた。

 シンは左手で無意識の内に髪をもてあそびつつ、きいた。
「なぜ?」

 十日に一度、シンはキールの家を訪れる。
 十日に一度の逢瀬を楽しみ、別れ、また出会う。そういうふうに、もう五十ほど回を重ねた。一年と、すこし。

 別に今のままでも、不都合はない。
 これが別の人間なら、保証や財を得るため、とも思うが、別にキールは社会的に保障のない愛人のままでも、不自由はしない。
「俺が、お前に、本気だから。お前が、戻ってくる場所は俺のところであってほしいし、俺の側でくつろいで欲しい。愛しているから」

「愛、ね……」
 シンは斜に構えた、笑みを見せた。
 昔、自分とキールは同類だった。
 愛情など信じない、という一点において。

 ただしキールの場合、「偽りのある愛情など愛じゃない」で、シンの場合「恋愛感情の愛情など蜃気楼だ」という違いはあったが。
 愛している、も、好きだ、も。
 シンにとっては、使い慣れたただの道具だ。

 かつて、何人に同じ言葉を囁きかけたことだろう。多くは、垂れ幕を深く引いた、暗闇のなかで。
 だから、シンは、キールに対して、ただの一度もその便利な道具を使ったことはない。
 それが、シンの真実だった。

 シンは、髪留めを掌にのせ、差し出した。
「いらない」
 キールはそれに数秒、目をあて、静かに聞いた。
「俺が、嫌い?」

「……ナギが反対するだろう?」
 それは事実。
 キールはうっと口篭もる。
「それを何とかしてから、言うんだな」
「……わかった」
 吐息つきで、キールは返された贈り物を、受け取った。


 三人分の皿洗いを終えたあと、キールは食卓で本を読んでいるナギの真向いに、椅子を引いて座った。
「ナギ」

「なんだい?」
 艶笑本なのか、笑みを含ませた顔でナギが本から顔をあげる。その直後、絶好の間でキールは言った。
「シンと結婚したいんだけど」

 ナギが絶句したのが、表情と気配でわかった。
「……なんだって?」
「結婚」

「…………誰と?」
「シンと」

「・・・要するに、つまるところ、お前は、緑さまと婚姻をして縁戚関係を結びたい、と、こういうことだな?」
「いや、別に。縁戚関係は結ばなくてもいいんだけど」
「こんの大ボケがーっ!」
 どべしっ!
 キールの頭をはりせんで張り倒す。
 もっとも紙でできているので、全然痛くない。

「緑様と我が家みたいな平凡な家庭が、どこをどうしたら結婚できるっ!?」
「できるよ、俺、シミナーだもん」
 キールはいつものように、泰然としていた。

「シミナーの地位って、ナギが思っている以上に高いよ。俺、人望あるしー。名声どっさりあるしー。人脈もうじゃうじゃあるしー」

 言い負かされ、ナギは別の文句をつけた。
「……で? シミナーであるお前は、緑様と結婚して何をしたいんだ?」
「側にいてやりたい。いつでも」
 その言葉は、キールらしからぬ春の日だまりのような微笑とともに言い放たれた。

「皇宮内は、一種の異次元だから。情報がなかなか廻ってこないんだ。となると、言葉による精神的負担の軽減も、事情を知らなければ中々中には踏み込めない。かといって、……心をのぞいたら、間違いなくシンに嫌われて殺されるし」
「当たり前だ。そもそも! お前が緑様に手を出すなんぞという事をしたのが、悪いっ」

 ナギはキールの両頬を手で引っ張った。
「ひひゃい! ひひゃいってぱ!」
 ナギが手を離すと、キールは頬をさすりながら言った。

「俺、好きなものを手をこまねいて待っているなんて嫌なんだ。相手がこっちに好意を持っているって知っていればいるほどね。まあ……自宅を逢瀬の場所にしたのは悪かったと思うけどさ。シンはこの場所、この家、そしてこの家に住む人間、ひっくるめて愛着と落ち着き感じてるから。それに、ちゃんと最中の音が聞こえないよう配慮はしてるよ」

「配慮すればいーという話か? ええ? ……まあ、黙認してきた私もいくらかの責任がある。それは認めよう。……まあ、自然の流れといえばそうなんだが、でも……」
 ナギははああ、とため息をついた。

「キール。お前、わかってるのか? シンは、緑様なんだぞ。つまり貴族の、根性がねじれて歪んで腐っている連中と、仲良し付き合いしなきゃいけないんだぞ」

「あ、だいじょうぶ。根性がねじれて歪んで腐っている事にかけちゃ、俺も自信があるから」
 爽やかに言い放たれて、ナギはどういう反応をするべきか、悩んだ。

「あのさ、ナギ」
 キールの声の様子が、変わった。
 低くなり、引き締まった。
 ナギもそれを感じ取り、姿勢を正して真顔になった。

「シンを好きになるまで、俺は、自分が幸せだって感じたこと、一瞬だってなかった。お金も持っていたし、力もあった。黙って立っているだけで、人がちやほやしてくれた。大人ですら、俺には頭を下げた。俺は、皆が欲しがるもの、みんな持っていたんだ。
でも・・ありがたいって思ったことなんか、一つもなかった」
 ナギは黙って、聞いていた。
 薄々、彼は気づいていたので。
 キールの中の、闇に。

「でも……シンを、好きになって、俺はやっと、物を好きになることができた。花が綺麗で、空気が澄んでいて、人は相変わらず馬鹿だけど可愛くて、シンは、……どんな花より、美しかった。
 それから口説いて追い掛けて、数年ごしで、何とか振り向いてもらえたけど、好きになってもらわなくとも、俺は一生ずっと、シンを愛していた。  俺、シンに会えて、本当によかった。もし会わずにいたら、俺はずっとあのまま、表面を取り繕った作り笑いだけで、一生、心から笑うことも、何かを好きになることもなく、死んでいたと思う。 ・・・ナギ。俺、シンの力になりたい。なってやりたいんだ」

「…………誰も、何も、好きになったことがない……か」
 ナギはほろ苦く笑った。

「あ! ナギとイールは別」
「もう、いい……」

 ナギは椅子の背もたれに体を預けて、ため息をついた。
「緑様と姻戚関係を結べば、私は貴族の称号を与えられるだろう。それは、嫌だった。ただ平凡に、つつましく、心静かに老いていきたかったんだが……。お前が不幸でいるより、私が嫌な思いをする方が、ずっとましというものだ。好きになさい」
「ナギ……。我が侭言ってごめん」

「何言ってる? 子供は我が侭を言うのが仕事だ。お前が私に何か我が侭を言ったことは、なかった。今回やっと一回目だ。もっと我が侭を言いなさい。いいね……」
 頭をなぜる手の感触。

 もう子供じゃない、と思ったが、その手の感触があまりに心地よかったので、大人しくされるがままになっていた。

 雪の、花が降る。






 しばらくして、また、訪れたシンにその事を告げると、シンはひどく驚いたようだった。
「なんだ、本気だったのか?」

「……相変わらずの言い草ですこと」
「お互い様だ。ふーん、ナギが頷いたか。ナギはなんだかんだ言っても、子供には甘いから、泣き落としでもしたか?」
「ま、ほぼ正解かな」
 キールは肩をすくめてみせた。

「で、これ。今度は受け取ってくれるかな」
 キールは髪飾りをひらひらと振る。
 シンはしばらくそれを黙って見ていたが、やはり、首を横に振った。

「駄目だ・・…」
「なぜ?」

 シンは視線を微妙にずらしていた。
「わからない。なぜ、そんなものに拘る必要がある? なぜ、今のままじゃいけない?」
 キールは恋人を値踏みするように眺め、ふっと皮肉げな微笑を唇に佩いた。

「……つまり、お前、俺の他に俺より好きな人間でも、いるわけ?」
 数秒間をあけ、シンは顔をあげてキールを真っ向から見た。
 挑発的な微笑で、挑発的な言葉をつづる。
「それが? 私が、お前に、いちいち断らなければならない理由はない」

「そりゃそーだ。お前の情人の数なんて、二桁いくものな。ほとんどは過去形だけど、現在進行形は、一体俺の他に何人いることやら。そういう貞操観念、お前はことのほか、薄いものな」

 思いきり皮肉を込めて言ってやると、返答は更に毒に満ちたものだった。
「そうだな。現在進行形は、お前の他でもいくらでもいる。緑の座の毎夜の慰めのためにいる者も、宮中には数多くいるしな。その中でもお前が一番うまいが、お前、今、一体何人と続いている? 十年間、お前が私を口説きながら、どこの誰と寝ていたか、どれほどの数寝ていたか、まさか私が知らないと思っていたか?」
 火に油。
 火事に大風。
 怒りに憎悪。

 キールはきらりと目を光らせると、何か言い掛け――やめて、シンの右手を取った。
 そして、恭しいといっていいほどの態度で、手の甲に唇を触れさせた。
「……愛してる。何故、信じてくれない?」
「一重にお前の日頃の言動の悪さだな」
 言い切って、さっきの険悪な空気はどこへやら、シンはやわらかく苦笑した。

 心を鉈で叩き斬るような皮肉の合戦は、彼ら二人にとって、あまりにも多く繰り返されてきた事だった。
「キール」
 名前を呼んで、顔を包んで、額に口づけ。

「……いっつもこれでうまく誤魔化されるような気がする」
 キールが呟いた。
 そこにシンが気のない冷淡な一言を投げ掛ける。
「それは、お前の責任」

 キールはやれやれと肩をすくめて、目と目を合わせてどちらともなく吹き出すと、ゆっくり唇を重ねた。
 想い人の肩口に頭をもたれかけて、キールは目を閉じる。
 今ここでこうしている時間を、どんな金銀よりも大切で希有に思う。なんせ、この自分が、幸せであると実感できる時間なのだから。

 想う相手がいて、相手もまた自分を想ってくれている。そして二人きりでいられる。これ以上の幸せが、あるだろうか。
「シン……あのな。確かに、俺は、お前を口説いている間、寝てたけど。でも、全部職業にしている人たちだけで、口説いたことはないから。俺が、その気でそういう関係になりたいと思って口説いたのは、お前だけだからお前を襲わないためには自制心が必要だったっていうか……なんというか……」

「キール」
 シンはキールの弁明を遮った。
「あのな。私がここに一緒にいられる時間は短いんだ」
 いつまで、無駄につぶしているつもりだ?

 言外の言葉に、完全にやられた。
「――ごめん」
 抱き締め、短く詫びると、そっと、肩を押して寝台に横たえた。



       § § §  



冷たさを感じる美貌がじょじょに紅潮し、ほころんでいく様は、いつ見ても変わらずにキールを興奮させた。
 前のときに自分が残した跡などもうどこにも見当らない白い肌に、また新しく跡をつけていく。

 ―――現在進行形は、お前の他でもいくらでもいる。

 不安になるのは、なぜ?
 こうして、ここに、シンはいるのに、いつも変わらぬ不安が胸の奥底に巣食っている。それは、恋の成就と同時に湧きだした黒い小蟲だった。

 蟲はささやく。
 ほんとに手に入れられたとでも思っているのかよ。緑の座だぜ? 皇宮にもどりゃ、それこそ身分相応の、相手はいくらでもいるだろーよ。

 よしんば今はお前の事が好きでもよ。いったいいつまでそりゃ続くんだ? 一年? 二年? 死ぬまで続けばいーよな、ぎゃーっはっはっはっ!

 だいたい、一度も、何も、言われてねーくせに。

 それは小さな刺。
 シンからは、何も言われていない。

 好きも、愛しているも、口から出たとたんになんて空々しく響くことか。
 だから、シンは、何も話さない。
 わかってはいるけれど、それでも。
 時々不安になるのは、止められない……。

 まるで美の結晶のように、どこもかしこも完璧な裸身を唇でなぞって、シンの唇から漏れる吐息と、自分の息が混ざって区別がつかなる頃、自分は貫く。
 シンの全身は震える。
 内部は火傷するほどに熱く、狭い。そのなかをかきわけるように進んで、精を放つ。

 力なくもたれ掛かる体を抱き締めて、キールは思う。
 人の心に、永遠も絶対もないと知ってる。
  ……もしも、シンが俺のことを嫌いになったら、俺は一体、どうすればいいんだろう。
  世にいくらでも人はいるのに。
 なぜ、俺は、この幼馴染みでないと、駄目なんだろう?


       § § §


「キール……、おもい……」
 キールの頭が肺の上にでん、と乗っていた。

 人の頭は意外に重い。ましてや、女性に分化したシンと男性に分化したキールとでは、幼い頃はともかく、今は頭一つと半分、体格に差があった。
「シンの胸、ふかふか」
「羨ましいならお前も胸はやせ」
「はやす……って、はやせるもんじゃないだろ」

 言いつつキールがどいたので、シンはようやく楽に息ができるようになった。
「……シン」
「なんだ?」
「妊娠したら、結婚してくれる?」

 一発キールの頭を殴り飛ばしたシンだった。
「子供を結婚の道具に使うとは何事だっ。大体、子供ができるはずがないだろう」
 自然受胎率は、天文学的低さだ。

「俺、自然児だけど? 自然児からは自然児がうまれやすい」
「迷信だ」
 シンは頑ななまでに即座に切って捨てた。

「ま、もし仮にできたとしても……」
 シンはその先を口の中に消えさせた。

キールがうながす。
「しても?」
「私の子とは認めない」

 さすがに、キールは表情を厳しくした。
「なぜ?」

 シンは仰向けで寝た姿勢のまま、顔にまとわりつく長髪を、かきあげるようにどけた。
「もし私が孕んだなら! ……相手はお前だ。お前としか寝てないからな。
お前の子供を、皇族になどさせられるか」
 それがシンの精一杯の告白だった。

 さっきの口喧嘩の内容は嘘だとも、愛しているとも言えない自分の。
 全身を緊張させ、目をしっかり閉じて、キールの言葉を待った。
「……シン」
 再び、胸に重石が乗った。
「重いって言ってるだろーが! どけっ!」
「んー。幸せで、めまいがする……」

 シンはその声音に一発殴るのをやめて、しぶしぶキールの頭を撫でてやった。

「………お前、私なんかのどこがそんなにいいんだ……?」
 音になる前の、内心のつぶやき。
 神ならぬ身では、それがお互いに抱えた不安であることを、知る由もなかった。

 


 

 「リクエストは、キールと、女に分化したシンがラブラブ」でした。

 苦苦苦……。
 この二人って、……なんてらぶらぶ書きにくいんだーっ!

 どこからともなく、殺伐としてきます。ええ、誰のせいとはいいませんが。
 ええ、キャラ性格設定をそういう風にした、私の自業自得とは言いませんが。

 十八禁かも、とすこし思った今回。
 だって外見も性格も男に分化した時と変わらないんですもん。「裸にならないと、男女どちらか見分けがつかない」っていう設定ですし。

 考えてみても、その通りだと思うんですよ。
 分化するタイプの人類の男女差は、私たちみたいに、生まれた時から既に性別が決まっているタイプと比べると、男女の体格差、容姿の差がないはずなんです。

 「妊娠」ネタも、同様。
 あー、男の時と、差がないんで、差を作るのに苦労しました。

 これ、続こうか、続くまいか、悩んでます。これで終わりにしてもいいラストですし……でも続き考えちゃったし……。
 どうしましょう。

 話は変わって、今回のリクエストは二本あります。
 もう少し待ってくださいね。
 こっちはシンが男バージョンです。
 しかし、全然変わりません。
 性格、同じで、外見も一緒だとこうなるのね……。

 

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