「確率の問題だよ」
そういってシンは優しげに微笑んだ。
彼がこんな風に微笑む相手は限られていて、
目の前にはその数少ない相手であるイールがいる。
「シミナーが生まれる確率は、約百年に一人だ。数にして言えば、五千万人に、一人。瘴気浄化能力者は、実は同じぐらいの確率だ。そこで問題。この二つの能力を兼ね備えた人間は、どれぐらいの確率だと思う?」
「、……えーと」
「こう考えれば判りやすいよ。五千万人に、一人は瘴気浄化能力者だ。なら百年に一人生まれるシミナーが、五千万人集まるのは何年後かってね。死亡数は考慮にいれない。
…五十億年っていうとんでもない数字」
「……ご、じゅうおく…年?」
「さらにもう一つ計算だ。精霊を見る能力。これは、前者ほど確率は低くないし正確な数字もないけどそれでも一万人に一人…うんと甘くみて、千人に一人かな。で、五十億年かける千をやってごらん。どんな数字になる?」
シンは黙ったイールに笑いかけた。
「ねぇ? すごい確率だよね。あまりに低い確率の偶然は偶然で済まないって言う人もいるけれど、僕は反対の意見だな。あまりに低い、とてもとても低いゼロに限りなく近い確率、それが実現したとき人は偶然っていう言葉を使うんだ。だって実際、その偶然が、側にいる。
…五兆年に一度、確実に宇宙開闢以来初めてで唯一だろうっていう確率がね」
「…五兆年」
イールは呆然とつぶやいた。
「…だから、キールって古今東西前代未聞の術師って呼ばれるんだ」
「そう。確率への挑戦と言うしかないね。キールが生まれたときは、大騒動になったもんだよ。…検査をしつこくしつこく人員変えて何度も何度もやり直したってさ。でも何度やっても変わらない。そして、実際僕はキールがそれらの能力を使うところを幾度となく見ているからね。根強い『かたり』の可能性を、
否定せざるを得ない」
やれやれ、と肩をすくめる。
「かたり?」
「五兆年に一度なんて確率が実現する訳がない、っていうのが根拠。……なんというか、反論の方が説得力があるのが笑えるよねぇ? そんな確率に説得力なんて無きに等しいもの。…でも、実際、いるんだよね、まじで」
イールは頷いた。この間幼なじみが、「古今東西最強の術師」とキールを評した理由は、
聞かされてみれば簡単な事だった。つまり、イールでも納得するような。
「……五兆年に一度ねぇ…」
まったく現実味のない確率だった。 |